ブランコ




子供達の姿も見えなくなり静けさの戻った公園で、二台のブランコが仲良く揺れている。
1台は小さく、そしてもう一台は大きく…まったく違うペースで前後するブランコだけど、
それでも何回かに一度はシンクロして、それを漕ぐ二人がニコリと視線を合わす。
寄り添うように地面に置かれたカバンと、そこにぶら下がるお揃いの小さなポーチが、彼女達の関係を良く表している。


「なぎさ、漕ぎ過ぎ!それじゃあ怪我しちゃうよ!?もし手が離れたら…」
何度目かに目が合った時、上へと高く上昇するなぎさに対して、ほのかが心配そうに声を掛ける。
だが、その声が聞こえないのか、なぎさが速度を緩める気配は無い。
「なぎさってば!」
「大丈夫だって!コレくらい全然大丈夫!」
やはり聞こえていたらしく、明るい声でなぎさが答える。とは言うものの、心配をかけては悪いと思ったのか漕ぐ力を少し弱める。
ちょっとだけてっぺんが低くなり、そこから見える景色も本当にちょっとだけ変わる。
「ねえほのか?」
そのままブランコを前後させながら、今度はなぎさがほのかに話しかける。
「何だかさ、子供の頃思い出さない?あの頃って、こうやって誰が一番大きく漕げるか競争したよね!?」
「うーん、私はあんまりそう言う事感じないかも。外で遊ぶよりも本とか読んでたから」
「そっか。フフッ、そうだよね。そう言えば女の子でやってたの、あたしくらいだったかも」
幼き日の自分を思い出し、なぎさがクスクスと笑う。
そしてもう一度「よっ」と力を入れて大きく漕ぐと、ゆっくりと速度を落として行く。

「…っと。ほのかもやってみない?」
十分に勢いの弱まったブランコからヒョイと飛び降り、なぎさが笑顔で振り返る。
「え?私も?」
「やってみようよ!うん、決定!」
答えも聞かずに一人で強引に決定して、座ったままのほのかの後ろに軽やかに身を移す。
足をほのかとブランコの隙間に置き、しっかりと鎖を握る。つまり、立ち漕ぎの体勢である。
「あ…ちょっと、なぎさ!?」
「いくよ…それっ!」
戸惑うほのかに二ヒヒと笑顔を見せ、なぎさがブランコを動かし始める。
―――ギィ…ギィ、ギィ…
始めはゆっくりと
―――ギッ…ブン、ブンッ
そして次第に早く。
段々と勢いが増して行き、そしてその感覚に「きゃーっ!」とほのかが思わず身を強張らせる。
もちろんなぎさ一人でやるよりもずっとマイルドだが、それでもほのかにとっては未知の事なのだ。
しかし次第にそれにも慣れ、どうなってるんだろうと言う好奇心と共に、目を開けてそっと顔を上げる。

「すごい…」
そこには空が広がっていた。さっき見たよりも更に赤みを増した大空が。
「どう?気持ち良いでしょ!?」
「ちょっと怖いけど、でも、ウン!凄く気持ち良い!」
風を切る音に負けないように、ほのかが大きな声で答える。
後ろに下がる度に、魂はそこに置いてけぼりを喰らうように感じる。上昇する度に、そのまま空に吸い込まれて行きそうに感じる。
そして頂点では、一瞬重力から開放され、まるで宙を舞っているかのようである。

―――もっと高く上がったら、もっと気持ち良いのかしら?
振り子のように大きく揺られながら、今度やってみようかな、とほのかが考える。
―――でも私にはムリ。一人じゃ怖いもの
しかし下に見える地面に、すぐにそれを否定する。
―――だけどもし、もし二人だったら。なぎさと二人だったら、きっとどこまでも…

「ねえほのか?」
そんな事を考えていたらなぎさに呼びかけられて、ハッと我に返る。
「なに?」
「もしさ、ほのかがもし、これからも早く漕ぎたくなる時があったら、あたしが一緒に漕いであげる。
だからその時は、今日よりももっと高くまで行こうね!」
ドキン、とほのかの心臓が大きく鼓動する。
それから心がポッと温かくなって、何だかとっても嬉しくなる。
「それなら、なぎさが一人で漕ぐのに疲れた時は、わたしが代わりにゆっくりと漕いであげるね」
「フフ、お願いね!?」
「うん!」
ウフフ、と笑顔になる二人。そしてなぎさが漕ぐ事を止める。
暫らくの間ブランコは惰性で揺れ、徐々に減速し、やがて停止する。

「さて、そろそろ帰ろうか?」
「そうね。もうすぐ暗くなっちゃうしね」
鞄を取って空を見上げると、先程の赤さは消え、薄らと青くなっている。
「ホラほのか、行こう?」
「あ、待ってよ、なぎさ!」
先に出口に向かって歩き始めているなぎさの下に、ほのかが走って行く。
そして、仲良く肩を寄せ合って、二人が曲がり角へと消えて行く。


誰も居なくなった公園で、二台のブランコが静かに風に揺れている。
いつかまた、再びこのブランコに乗る時、二人はどのように乗るのだろうか?
ゆっくりと?それとも今日よりも大きく?
でも、気になるけれど、実はどっちだって構わないのだ。
だって「二人で一緒に」って事が大事なんだから。
なぎさとほのか、二人で一緒に、ね。






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