キモチのチカラ





「ねえ、そういえばもうすぐ学祭の時期じゃない!?」
帰り道の楽しいお喋りタイム。尽きることない会話の中、ふと莉奈が声を上げる。
「そうね、去年は舞台をやったけど今年は何をやるのかしら…?」
「ハイハイハイ!今年も演劇希望でーす!」
ほのかの言葉に素早く反応する志穂。
しかしそんな志穂の様子になぎさは不満顔を見せる。
「え〜?また!?去年やったから違うのがいいよ。それに去年の志穂の指導、スッゴイ厳しかったし…」
最後の方は小声でゴニョゴニョ…だけど志穂にはしっかり聞こえていた。
「何で何で何で!?あんなに好評だったんだよ?それにアレ位の指導で弱音吐いてもらっちゃ困るなー。
演技ってのは情熱だよ!?魂の表現だよ!?それなのになぎさってば……」
「分かった、分かったよ!…でも、もうあれから一年経つんだ…あの時は緊張したな〜」
「フフ、あの時はつられて私までドキドキしちゃったんだから」
一年前に思いを馳せるなぎさとほのか。目を閉じると、あの時の光景が鮮やかに蘇ってくる。
「それにしても、なぎさも雪城さんもホントに似合ってたね。本物の王子様とお姫様みたいだったよ」
「そうそうそう!二人とも去年はもあの後ラブレターが凄かったもんね……なぎさは女子からだけど!」
「ちょっと志穂!」
「ゴメンゴメンゴメン!…あ、じゃあ私達これから寄るトコあるからここで行くね?バイバイ!」
「じゃあねなぎさ!雪城さん!」
むくれるなぎさに明るく手を振って志穂と莉奈が去っていく。
「まったくもう…。あー、今のでなんかお腹空いちゃった…。ねぇほのか?タコカフェ行かない?」
「もぅなぎさったら…。でもいいよ、行きましょ」
なぎさのお誘いに笑顔で答えるほのか。仲良く並んでいつもの公園へと向かっていく。

だが、そんな自分達を見つめる目がある事に、二人が気付くハズも無かった。



* * *



「あれ?珍しい、誰もいないね…」
「うん、なんだか寂しいわね…」
公園に到着した二人。いつもと違う雰囲気に何だか薄気味悪さを感じてしまう。
そんな気持ちを払拭しようと空を見上げるも、そこに広がるはあいにくの曇り空。
「それにしても、なんだか雨が降りそう。あたし傘持ってないんだよな…」
「お婆ちゃまお出かけしてるのよね。洗濯物大丈夫かしら…?」
そのどんよりとした雲に、思わずネガティブな思いが口をついて出てくる。
と、その時―――
「そんな心配をする必要は無い。お前達はここで終わりだ」
突如周囲に轟く不気味な声。
その声に振り向く二人の視線が、そこに居る男に吸い寄せられていく。
圧倒的な威圧感。禍々しい邪気。そして何よりその特徴的な顎。
そう、闇の最強の男―――バルデス襲来

「あなたは…!」
「ここで終わりって、そんなことある訳ないじゃない!」
勝手な言い分に反論する二人。
しかし当のバルデスは、そんな言葉などどこ吹く風。
「ちょっと!聞いてるの!?」
「どうやら、残りも来たようだな…」
何かを確認し、呟くバルデス。
すると間も無く、ポルンに導かれたひかりの姿が―――
「なぎささん!ほのかさん!」
「ひかり、変身するポポ!」
「うん…ルミナス・シャイニングストリーム!」
そして二人に先んじて変身を開始する。
「どうした、お前らは変身しないのか?それでも俺は構わないんだがな…」
再び二人に視線を戻すバルデス。言葉と共に右手をゆっくりと前に突き出し、力を集中させて行く。
その行動が単なる脅しではない事を、邪悪な瞳が雄弁に物語る。

「なぎさ!変身するメポ!」
「そうミポ!」
「分かってるって!ほのか!」
「うん!」

『デュアルオーロラウェイブ!!』


「光の使者、キュアホワイト!」
「光の使者、キュアブラック!」
「闇の力の僕たちよ」
「とっととお家に帰りなさい!」

決め台詞と共に変身完了。

それを待っていたかのように、バルデスがかざしていた右手を下げ身構える。
「……来い、以前のようにはいかんぞ」

―――いざ、戦闘開始


・ ・ ・


構えたまま微動だにしないバルデス。対峙するプリキュアとルミナスも又然り。
両者の生み出す凄まじいプレッシャーが、周囲にもビリビリと伝わって行く。
その圧力に耐え切れずに、一枚の葉っぱがハラリと地面へと落ちたその時―――
「だぁ―――っ!!」
空気をを切り裂き、ブラックが飛び込んで行く。
「だだだだだだ―――っ!!!」
気合と共に次々と高速で繰り出される拳。しかしバルデスはその全てを紙一重でかわしていく。
「ぬん!」
そして一瞬のスキを突き逆にブラックに拳を入れる。

「ブラック!」

声を上げるホワイトとルミナス。
が、その時、ホワイトがバルデスの隙を発見した。
(背中を向けた!今ならいける!)
「タァ―――っ!!」
狙うは高速の回転蹴り。目標まであと30センチ。
「お見通しだ!!」
しかし寸でのところでかわされ逆に足首を掴まれてしまった。
「キャァァ!」
ブンブンと振り回され、投げ飛ばされるホワイト。
だが地面に叩きつけられる寸前にブラックが救出に成功した。

「強い…前よりも全然」
「だけど負けない。負けられない!」
「どんなことがあっても絶対に!」
圧倒的に劣勢に立たされながらも、挫けぬ心を見せる二人。
そんな二人にバルデスがユックリと近づいてくる。
「随分威勢が良いな。だが今度はこちらの番だ、一人ずつ捻り潰してやる…。まずは……お前からだ!!」
言葉と共に、地面を“ダン”と強く蹴りつけるバルデス。
と、次の瞬間―――

「!?」

突然ホワイトの目の前に現れたバルデスの両の掌。
「フンッ!!」
そこから放たれた光弾が無防備なホワイトを直撃する。
木々をなぎ倒しながら凄まじい勢いで吹き飛んでいくホワイト。
「ホワイト!!」
立ち昇る土煙を見て、ブラックとルミナスが悲痛な叫びを上げる。
しかしその叫び声にバルデスが素早く反応を示す。
「他人の心配などしてる余裕など無いぞ、シャイニールミナス!次は貴様だ!!」
元より戦闘能力の低いルミナス。襲い掛かってくるバルデスに抗う事などできるはずも無く、簡単に吹き飛ばされる。
「ふん…他愛のない」
吐き捨てるように言い、残ったブラックへとバルデスが体を向ける。
「残るはお前一人だな。覚悟しろ…ぬぅっ!!」
唸り声と共に全身に力を溜め始めるバルデス。
膨れた闇のエネルギーが両手に集まっていく。
そして
「ぬがあぁぁぁっっ!!!」
咆哮一閃、巨大な闇がブラックへ向けて放たれる。

そこからの数秒はまるでスローモーションのよう。

立ち尽くすブラック。
その目の前に飛び出す人影。
抵抗する人影を一瞬で飲み込み、横を掠めて行く闇の光球。
そして大爆発……


「ホワ…ほのかぁぁぁ!!!!!」
戸惑い、怒り、悲しみ…全てがゴチャ混ぜになった叫び。
ガクッと崩れ落ちるブラックに、バルデスが冷徹に言い放つ。
「相棒を助ける為に自分が犠牲になるとは愚かな…」
だが、その見下した一言が、ブラックの心に火をつけた。
「……今なんて言ったの?…ふざけないで!!あんたに何がわかるのよ!?」
体が燃える様に熱くなる。涙が噴出してくる。
「…許さない。絶対に、絶対に許さないっ!!があぁぁぁ!!!」
そして掴んだ小石を砕くほどに固く拳を握り締め、バルデスへと飛び掛る。
「許さないだと?笑わせるなっ!」
そんなブラックを鼻で笑いながら迎撃するバルデス。
その拳が無情にもブラックを捉えた―――はずだった。
だが手応えが無い。
「ぬ!?」
そしてギクとしながら視線を落としたその時
「でや―――っ!!」
懐から跳ね上げるようにして繰り出されたブラックの蹴り。
何とかかわしたものの、掠めた頬の焦げる匂いがツンと鼻を刺激する。
「…小賢しいマネを。…ぬあぁぁぁ―――!!」
「だだだだだだぁ―――ッ」
本気のバルデス、怒りのブラック。
降り出した雨の中ぶつかり合う二人の戦士。
一方は己のプライドの為、一方は友の為―――異なる思いが込められた二つの拳が激しく交差する。
互角に思えた肉弾戦。
だがやがて、徐々にブラックの勢いがバルデスを圧倒し始める。
そしてとうとう
「グハッ!」
みぞおちにめり込むブラックの拳。さらによろけるバルデスの横っ面に回し蹴りを叩き込む。
地面を削りながら吹き飛ぶバルデス。
なんとか体勢を立て直したその視線の先には、クルクルと回転しながら着地するブラックの姿。
「おのれ!プリキュア!!」
それを見て鬼のような形相で再びバルデスが全身に力を溜め始める。
だがその時―――

「ルミナス・ハーティエルアンクション!!」
「がぁ!?」

不意をつくルミナスの一撃。全身から闇の力が抜けて行く。
そんな様子を見たブラック
「これで終わりぃぃ!!でやぁぁ!!」
掛け声と共にグルグルと腕を回してバルデスへと向かっていく。
しかしそれが当たる寸前
「クッ…勝負はお預けだ」
忌々しそうな舌打ちを残して、フッとバルデスの姿が消えていった。

ブン!と虚空を切るブラックの拳。
その勢いに任せクルっと一回転すると、ハアハアと肩を上下させて今までバルデスがいた場所を無言で見つめる。
強く降り続く雨が、心と体を冷ましていく。
「…ほのか」
ボソッと呟くブラック。
「ほのか!!」
そして再度強く叫ぶと、瓦礫に埋もれたままの友の下へと走って行った。



* * *



―――良かった…

ビロードのような肌、長く艶やかな髪……まるで何事も起こらなかったかのように
ベッドに静かに横たわるほのかを見て、ホッと一つなぎさが息を吐く。

―――でも、もしこのまま目が覚めなかったら…?

そんなワケないじゃん!と、慌ててブンブンと頭を振るなぎさ。
だがいくら振り払おうとしても、一旦湧いた黒い霧は消え去らない。

―――…イヤだ!そんなのイヤだよ!
     もっと沢山話したい!もっと一杯笑いたい!もっともっと一緒に居たい!!

ココロの中で弾ける熱い気持ち。瞳から熱い滴が零れ落ちる。
と、その時―――

「…なんで泣いてるの?」

震える体を包み込む優しい声。
「そんな顔、なぎさに似合わないよ?」
「ほのか!?」
ハッと顔を上げたなぎさの目に、ほのかの微笑が飛び込んできた。
「ほら、笑って?」
「大丈夫…なの?」
そのなぎさの問いかけに、ほのかが静かに頷く。
「…よかった!!」
再び瞳に涙が溢れてくる。
「ほらほら、泣かないの…」
「だって…だって…」
泣きじゃくるなぎさ。
その背中をほのかの手が優しく撫でるのであった。

・ ・ ・

「でも本当によかった…」
ようやく顔を上げたなぎさ、ゴシゴシと目を擦りながら真直ぐにほのかを見つめる。
「あたしの所に来る前にルミナスのバトン借りたんでしょ?ひかりから聞いたよ。それが盾になったはずだから
きっと大丈夫ってひかりは言ってたけど、本当だったね…!」
そして瞳に涙を残しながらもそう笑顔で語ると、やっと心がスッキリしたのか
「お茶でも入れてくるね」
と立ち上がる。
しかし……

「待ってなぎさ!」

その声になぎさが振り返ると、ほのかが目を閉じて唇を軽く突き出し、「ん」

「…?『ん』って何?」
「あら、王子様のキスがないとお姫様は完全には目が覚めないのよ?だから…」
「ちょ、ちょっとほのか!こんな時に何いってるの!?それにあたし王子様なんかじゃ…」
思わぬほのかの発言に顔を赤くして戸惑うなぎさ。
しかしそんななぎさの照れる様子がおかしかったのか、クスクスと楽しげにほのかが笑う。
「ウフフ、いいでしょ?ロミオ様。お願い…」
そして、再びそっと目を閉じる。
「ロミオ、ね…。もぅほのかったら…」
ほのかの言葉に、しょうがないなといった感じでフゥと一つ息を吐き出すと、なぎさが再び腰を下ろす。
だけど一度決心してしまえば後はノリノリ。
「いくよ?ジュリエット…」
二人の顔がユックリと近づいていく。

そして―――



* * *



「お早うございます!」

背中越しに聞こえてくるひかりの元気な声。
その声に振り返る二人、笑顔に笑顔で返事をする。
「それにしても良かったですねほのかさん、なんとも無くて!本当に心配しました…」
「ありがとう、ひかりさん。でもこうして無事なのもひかりさんのお陰よ。あのバトンが無ければ今頃は…」
心の底からホッとした表情を見せるひかりに、ほのかが感謝の気持ちを伝える。
「そんな、私なんか全然足手まといですから…。あ!そうそう!それに比べてなぎささんは凄かったんですよ!
ほのかさんがやられてから、あの人を突然圧倒し始めたんですから。思う気持ちって凄いんですね…。
それに、ほのかさんの為に戦うなぎささんの姿、本当に格好良かったです!」
絆の強さに感動し、眩しそうに二人を見るひかり。
しかし何故かそんなひかりの言葉にほのかが目を輝かす。
「でしょ!?だってなぎさは私の王子様だもん!」
「王子…?なんですか、ソレ?」
「だーーーーっ!!何でもナイ、何でもナイ!!」
その発言に慌てるなぎさ。ほのかの手を握ると強引に歩き出す。
「ホラ行こう!いやーそれにしてもイイ天気だね。そうそう、そう言えば……」
「ちょっとなぎさ、イキナリどうしたの…!?」


「……急にどうしたんだろう?」
突然の事に目をパチクリさせるひかり。
だけどスグに置いてけぼりを喰らった事に気が付く。
「待って下さい!今のどういう意味ですか!?」

二人に追いつこうとひかりが小走りに駆けて行く。
澄み切った空の下、白い息を吐きながら―――






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