チョコレート
とある休日、今日はほのかの家で勉強会。
その前に二人はおやつを買いに近所のスーパーまでやって来た。
勿論なぎさの提案で…
「どれにしようかな〜。コレもいいし、コレも美味しいんだよね…。ん〜なかなか決められないよ…」
チョコレートコーナーの前で悩むなぎさ。
だけどその顔は緩みっぱなし。
そんななぎさを見て、少したしなめるようにほのかが声をかける。
「なぎさ、今日の目的はチョコを食べることじゃなくて勉強することなのよ?」
「分かってるって!でも、腹が減っては戦は出来ぬ…って言うでしょ?」
調子良く答えるなぎさだが、どこか上の空な様子。
―――本当に分かってるのかしら…
一抹の不安を感じてしまうほのか。
そんな時、
「ヨシ!」
なぎさの声が聞こえてくる。
その声に改めて視線を向けると
「やっぱり一個になんか決められないよね!?」
と、両手にチョコを抱えた満面の笑みのなぎさの姿が…。
「はぁ…やっぱり…」
思わずため息が出てしまう。
しかしそんな事は意に介さないなぎさ。
「ねぇ、ほのか。ほのかも早く選ぼうよ?」
と、今度は逆に急かしてくる。
「もう、しょうがないんだから……じゃあ私はコレにしようかな…」
苦笑いしながらほのかが目の前にあった一箱を手に取る。
それを見てなぎさが目をキラキラと輝かせる。
「あ!それ新製品なんだよね…。ね、後で一口頂戴!?」
「フフ、分かりました…」
あまりに無邪気ななぎさの顔に、つられて笑顔になるほのか。
―――まったく、子供みたいね…。でもソコが可愛いところなんだけど…
そんな事を思いながらレジへとなぎさの背中を押していく。
「さ、行きましょ。コレを買ったら、家に戻って勉強だからね?」
「ハーイ!」
まるで親子のような会話をしながらも、これでようやく二人はほのかの家へと向かうのであった。
* * *
爽やかな昼下がり、庭からは忠太郎の欠伸の声が聞こえてくる。
しかしほのかの部屋から聞こえてくるのは、チッチッチッと時を刻む時計の音とカリカリというペンを走らせる音だけ。
部屋に戻ってから今まで、二人は無駄口を叩くこと無く机に向かっていた。
だがそんな充実した時間にも、やがて終わりがやってきた。
「ようやく宿題終わったよ…。疲れた〜…」
その言葉と共に、精根尽きたかのようにバッタリとなぎさが倒れこむ。
「…まだよ。明日のテストの予習が残ってるでしょ?」
だが、そんななぎさに冷静にほのかが突っ込みを入れる。
「ね、ほのか。ちょっと休憩しない?さっき買ったヤツ食べようよ!?」
「ダメよ。気力がある内にしっかり予習しないと…」
「いいじゃん!食べ終えたらちゃんとやるからさ。チョコだけにちょこっとだけ…ね?」
つれないほのかに、父親譲りの寒い駄洒落で懇願するなぎさ。
「それに一気にこれ以上やったって、頭に入らないよ!?」
さらに一応まともな論理でも畳み掛けてくる。
そんななぎさの再三の情熱に押し切られたのか、始めは乗り気じゃ無かったほのかだが、やがて
「そうね…。一旦頭を整理させるのも良いかもね…。分かったわ、少し休憩にしましょう?」
と、とうとう納得してしまった。
「本当!?ヤッター!!それならば早速…」
ほのかのお許しに、心底うれしそうな表情でなぎさがお菓子袋をガサゴソと物色しだす。
「もう…そんなに慌てないの。何か飲み物持ってくるから、ちょっと待っててね?」
そう可笑しそうに笑いながら、ほのかは台所へと席を立って行った。
・ ・ ・
「ん〜美味し〜!ヤッパ疲れた後のチョコは格別だね…」
チョコをかじりながら幸せそうになぎさが呟く。
そんななぎさをニコニコと見ながら、
「でしょ?チョコレートにはカカオ・ポリフェノールって言う成分が含まれててね、それ自体やその香りが
ストレスを和らげてくれるんですって。だから勉強で気が張った後なんかには確かに効果的よね…」
ほのかがサラリと薀蓄を披露する。
フーン、成る程ね…と、その薀蓄に感心しするなぎさ。
しかし同時に
「ね、ほのかの選んだヤツはどんな味?ちょっと頂戴?」
と、ほのかのチョコに手が伸びて行く。
目標まであと30cm…20cm…10cm…
「もーらい!」
そしてとうとうカケラに手が触れようとしたその時―――
「ダーメ!」
その声とともにほのかがチョコを遠ざける。
「え!?どうして?さっき約束したのに!ほのかの意地悪…」
驚きと悲しみが入り混じった表情のなぎさに、ほのかが苦笑いしながら語りかける。
「フフ、そうじゃないのよ。意地悪じゃなくて…」
そしてかけらを一つ、口に含ませる。
「こうやって食べさせてあげようと思っただけ…」
「ほのか…?」
戸惑うなぎさに意味深に微笑みながら、ほのかがそっと顔を近づける。
そして―――
「……!!」
突然の口付け。
そしてそれと共に口の中に甘い香りが広がって行く。
「…ん」
「っ…」
二人の舌に挟まれたチョコが、倍の速さで溶け出しなぎさへと移って行く。
そして全てを移し終えた頃、ほのかがそっと唇を離しなぎさに聞いてきた。
「…味はどうだった?」
「……甘…かった…」
真っ赤になりながらも答えるなぎさ。
そんななぎさにニッコリ微笑むと、今度はほのかがおねだりする。
「そう、良かった…。ねぇ…なぎさのチョコも頂戴?」
次はなぎさの番。
同じようにチョコを口に含み、同じようにキスをする。
絡み合う舌。
チョコの事など半ば忘れてしまったかのように、互いに互いを求め合う。
だがそんな時、僅かに開かれた口元からとろけたチョコが零れ落ちた。
「なぎさ…零れちゃったね…?」
もったいない――そう呟くと、ほのかがなぎさの首筋にそっと舌を這わせて行く。
「ぅあっ…!?」
その刺激になぎさが思わず声をあげる。
ゾクと背筋に震えが走る。立っていられない。
そして力無く膝をついたなぎさを、ほのかが軽く押し倒す。
「……ほのか、勉強は…?」
上気した顔で弱々しく聞いてくるなぎさに、クスッと笑ってほのかが答える。
「今はおやつの時間でしょ?だからいいの…」
甘い香が立ち込める中、二人は三たび唇を重ね合わせるのであった…
* * *
終了を告げるチャイムが鳴り、これで本日の授業も無事に全て終了となった。
「ねぇねぇねぇ、なぎさ!テストどうだった?」
喧騒の中、志穂が声を掛けてくる。
「この顔見て…。何も言わなくても判るでしょ…?」
呼びかけに振り返り、力無くなぎさが答える。
しかしそんななぎさに、莉奈が不思議そうに聞いてくる。
「え?だってなぎさ、『雪城さんに教えてもらうから大丈夫』って先週言ってたじゃん!?」
その言葉にハッとするなぎさ。
―――そうだよ…。昨日あんなに勉強頑張ったのに、どうしてこんな結果になっちゃたの…?
そして改めて昨日の出来事を思い返す。
―――まずスーパーに行ってチョコ買って、それからほのかの家に行って宿題やったでしょ…。
そしたら忠太郎がアクビをして…ってコレは関係ないか。
そうだ。宿題が終わったからおやつにしようって言って、それから…それから……。
……あれ?テスト勉強やってない…。テスト勉強やってないよ!?
アノ後疲れて寝ちゃって、それで起きたら夕飯時で、もう遅いから帰るって言って、それで……
頭の中を昨日の事がグルグルと回っていく。
「やってない…やっちゃったけどやってないんだ……」
「…?」
ワケの分からないなぎさの呟きに、志穂と莉奈が顔を見合わせる。
そんな時、
「なぎさ、テストの出来はどうだった?」
と、流れを知らないほのかが、志穂と同じようになぎさに声を掛けて来た。
「ほのか!あたし、やったけどやってなかった…!!」
「…?なぎさ、何の事?」
「昨日の事だよ!…どうしよう?このままじゃ中間テストの時みたいに……ありえない」
「昨日の…?」
一人うろたえるなぎさに対し、キョトンとするほのか。
だが直ぐに
「あ…!!」
と、顔を赤らめ押し黙る。
「何かあったね?なぎさ達…」
「うんうんうん。絶対にあった…」
そんな様子を見て疑いの視線を向ける志穂と莉奈。
「それじゃ、駅前のチョコパフェでも食べながらジックリ聞くとしましょうか?」
「賛成賛成賛成!あそこのパフェ、チョー美味しいんだよね!時間もタップリあるし…」
と、不敵な笑みを浮かべて盛り上がる。
「!!…あたし、今日はいいや…」
「わ、私もチョット遠慮させてもらおうかな…」
その盛り上がりに後ずさる二人。そして、
じゃあね―――と、なぎさがほのかの手を取り走り出す。
廊下、校庭、校門、いつもの曲がり角…。
見慣れた景色を風に溶かして駆ける二人。
どれくらい駆けただろうか?やがて足を止め、乱れた呼吸を整える。
そよ風が汗ばんだ体を心地よく包み込む。
「ねえ、ほのか…」
空を見上げながら、なぎさが呟くように話し掛ける。
「何?なぎさ」
「またほのかの家で、勉強教えてもらってもいいかな?」
「え?」
なぎさの顔を見返すほのか。
しかし一拍の間の後、静かにその答えを返す。
「…もちろん。でもその時はまた、チョコ持参で…ね?」
その言葉に、今度はなぎさがほのかに視線を向ける。
目が合う二人。
「ハハ…アハハハッ!」
「フフ…ウフフフッ!」
可笑しさがこみ上げてきて、思わず互いに笑い合う。
「ハー…。さ、ほのか。行こう!」
「うん!」
そして二人は再び風を切って走り出す。
笑顔の二人が向かう先。
それは―――
〜おしまい
…オマケ
「おいしー!ココのパフェってば本当に絶品!」
「ホントホントホント!このチョコとクリームのマッチ感がたまらないんだよね!なんかもう、どうにでもしてって感じ…」
「言えてる!…あーあ、なぎさ達も来ればよかったのにね。…でも、どうして断ったんだろう?」
「なんか、あの二人怪しくなかった?あたし達に隠し事があるみたいな雰囲気だったし…」
「そう言えばそうだね。…ひょっとしたらあの二人、付き合ってたりして…!」
「あり得るあり得るあり得る!禁断の恋ってヤツ!?そうならば、なぎさってどっかお子様なトコあるから、きっと雪城さんが主導権握ってるね…」
「それ絶対そうだよ!簡単に想像出来るもん………まぁでも、実際はそんな事ないか…」
「そっか…そうだよね。…って、チョットチョットチョット!莉奈のパフェ溶けかかってるよ!?」
「ウッソ、マジ!?うわ、早く食べようよ!志穂のだってヤバイじゃん!」
慌ててパフェをパクつく二人。
だけど現実はその想像を超えてるわけで…
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