ダメです!




「んしょ…おじゃまします」
立派な門をくぐると、一人の老人が庭で水撒きを行っていた。

「こんにちは、おばあちゃん」
「あらひかりさん、こんにちは。今日はどうしたんですか?」
その挨拶に手を止め、さなえがニコリと笑顔を向ける。
「ウフフ。内緒で来ちゃいました…あ、でも、マズかったでしょうか?」
「まさか、そんな事ありませんよ。どうぞ上がってくださいな、ほのかはなぎささんとお部屋にいますから」
「ありがとうございます!」
丁寧にお辞儀をしてそっと玄関の戸を開ける。
そして、二人ともビックリするかな?イキナリ来ちゃったから…と、二人の反応を想像しながら廊下を歩く。
「フフ、楽しみ…」
やがて部屋も近付き、クスクスと忍び笑いしながら静かに障子へと近付く。と、その時
「ごにょごにょごにょ……」
「もにょもにょもにょ……」
その向こうから、何やら声が聞こえて来た。

―――なぎささんとほのかさんの声だ、何話してるのかしら…ヨシ
音を立てないように抜き足差し足で近付くと、身を隠して耳をそばだてる。
「なぎさ…どう?」
「何かくすぐったいね」
―――くすぐったいって、何やってるんだろ?
二人の言葉にムラムラと湧き上がる好奇心。言葉を聞き逃すまいと、耳に一層の神経を集中させる。
「もっと奥に…ぁん」
「ここら辺?動かすよ…」
「あ……すご…気持ち良い…」
はあぁぁ、となぎさの切なそうな息遣いが聞こえて来る。

―――え?これって…!?
障子越しの二人の声に、ドキリと心臓が高鳴る。そして、その鼓動を更に早めるように二人の会話は続く。
「ほのか、お願い。もっとかき回して…」
「フフ、欲張りなんだから…」
「だってほのかってば上手いんだもん」
―――何が、一体ナニが起きてるの…?
混乱するひかり。しかし突然「!」と、とある事が彼女の頭をよぎる。
―――まさか、そんな…。ううん、そんな事ない。でも……
「はい、オシマイ」
「え…もう?何か物足りないよ…」
心底残念そうななぎさの声。が、それは直ぐに楽しそうな調子へと変化する。
「じゃあ、ねぇ?今度はあたしの番!」
「だけどなぎさ、初めてなんでしょ?ちょっと怖いかも…」
「大丈夫だって、優しくやるから。傷つけたりしないよ。…ホラ、もっとよく見せて?」
「あんっ!?なぎさってば、強引なんだから!」
とは言うものの、その声は何所か嬉しそうである。
「……うわぁ。ほのかの凄い綺麗…」
「もぅ、そんなにマジマジと見ないで…。ちょっと恥ずかしいよ…」
「いくよ、ほのか…」
「…んっ。なぎさ、もっと優しく…」

―――はわわわわ。コレはダメよ!
―――これはアレ、奈緒たちと本で見たアレよ!そんなアレなんてダメ!
何の本を見たかは知らないが、ともかく顔を真っ赤にし、ひかりがブンブンと首を振る。
しかしモチロン二人に通じる筈も無く、刺激的な言葉が再び耳に入って来る。
「どう?大丈夫だったでしょ?」
「うん。なぎさ、とっても上手だったよ」
「ありがと、ほのか。それにしてもほのかのやったせいか、あたしももう一回したくなっちゃった…」
「なぎさ、いくら良かったからってやりすぎはダメよ。中が傷ついちゃったら大変だもの」
「でも、凄く気持ち良かったんだもん。だから、ね!?お願い!もう一回だけ!」
「もぅ…しょうがないんだから…」
―――ダメです!ダメ!ダメですってば!
頭の中を、イケナイ姿の二人がグルグルと走り回る。
―――そんな事しちゃダメです。だって二人は…
「じゃあなぎさ、もう一度横になって」
「うん」
もうムリ。限界までピンク。だから障子を開けて、部屋の中にダッと飛び込んだ。
「なぎささん!ほのかさん!そんなイケナイ事しちゃダメ―――」


・ ・ ・


「ひかり!?」
「ひかりさん!?」
「……あれ?」
目の前の光景を見て、ひかりが目をパチクリさせる。
「あの、これってもしかして…」
そして、恐る恐ると言った感じで言葉を続ける。
その視線の先では、なぎさはほのかの膝で膝枕していて、ほのかは手に細い棒を握っている。
そう、つまりこれは―――

「耳掻き、ですか……?」
「う、うん」
「そうだけど…」
「なんだ、そうだったんだ…」
二人の返事に、ホッと安心したように息を吐き出す。と、それと同時に、急に可笑しさがこみ上げてくる。
「…フフ、ウフフッ、アハハハハッ!」
「ひかりさん、どうしたのかしら?」
「さあ…?」
弾けるように笑うひかりに、不思議そうになぎさとほのかが顔を見合わせる。
「ハハハ…ふぅ。…ねえ、なぎささんほのかさん?」
やがて笑いも収まり、深呼吸して息を整えると、ひかりがまだ楽しい涙の残る目を二人へと向ける。
「私にもしてくれませんか?耳掻き」
「ひかりさんも?」
「はい、是非お願いします!」
「いいよ!じゃああたしの膝の上に寝転がって!?」
ポンとなぎさが膝を叩く。
「ところでひかり、さっきは何慌ててたの?」
「え?えーと…」
まさか本当の事が言えるわけないし…と、少し考える。
「何でもありません。ちょっと勘違いしちゃったんです。きっと私の耳が詰まってたんですね!」
そして笑顔でそう言うと、なぎさの膝にちょこんと頭を乗せる。

「だから、フフッ、しっかりお願いしますね、耳掻き」


〜おしまい







TOPへ