デキちゃった!




夏真っ盛りの暑いある日、掃除を終えた理恵ママが、冷房のスイッチをポチッと押して
ティーカップを片手にソファーに軽やかに腰掛ける。

「ふぅ…少し休憩ね」
そして紅茶で喉を潤しながら時計をチラッ…
「あら、もうこんな時間…。マッタクあの子ったら朝からドコに行ってるのよ?」
夏休みとは言え遊んでばっか、帰ってきたら少しお灸でも据えようかしら―――

なんて考えていると…「ただいま!!」

「ちょっとなぎさ!あなたいくら休みだからって―――」
「お母さん聞いてよ!あたしね、デキちゃったの!」
「少しはしゅくだ………え?今なんて言ったの!?」
「だ・か・ら、デキたの!」

少し恥らいながらもニコニコと嬉しそうななぎさの顔。
その表情、そして「デキた」って言葉からしてやっぱりコレは―――おぎゃー!?

「デキたって…相手は、相手は誰なの!?」
「相手?ほのかだよ」
「ほのかって……まさか雪城さん?」
「もぅお母さんてば何言ってるの!?当たり前ジャン!」
「だってなぎさ、雪城さんは……そんなの絶対に無理よ」
「そう?そんなのほのかの力を持ってすれば楽勝だって!アハハッ!」

可愛い娘の屈託の無い笑い声。
頭の中がグラグラ揺れて、顔から血の気が猛スピードで引いて行く。

「イヤーそれにしてもビックリだよね!?だって―――」
なぎさが何か言葉を続けているが、もう聞こえない。
ヨロヨロとよろめきそうになる体を必死にこらえて、やっとの思いでママがなぎさに呟いた。

「なぎさ…雪城さんを家に連れて来て、今すぐに…」



* * *



「それで雪城さん…」

ひんやりと冷えた部屋の中、チクタクと聞こえる時計の音を打ち消すように、
理恵ママが少し詰問口調で問いかける。

「なぎさがデキたって、本当なの?」
「ハイ、もちろん!私もとっても嬉しいです!」
そう笑顔を見せるほのかに、なぎさもニコッと笑顔を合わせる。

「でも、なぎさはまだ子供なのよ!?それなのに―――」
「ちょっとお母さん!?いつまでも子供扱いしないでよ!あたしだってもう高校生なんだから…」
なぎさの反論に理恵さんがハッとした様に口をつぐむ。そして
「…二人とも、これからの事は決めてるの?」

「これから…?一応は決めてるよね、ねぇほのか?」
「ええ」
なぎさの呼びかけにほのかがコクリと頷く。

「そうなの…」
そんな二人の様子に大きく息を吐きながら、観念した様に目を閉じる。
「分かったわ。二人がそう決めたんなら、お母さんもう何も言わない。お父さんにもまだ黙ってるわ―――。ねえ雪城さん?」
「はい?」
「なぎさを…宜しくお願いしますね?」
「は、はい…」


ガチャリ―――とドアを開けて廊下に出た二人。と、ほのかが不思議そうになぎさに話しかける。

「なぎさのお母さん、何か様子が変じゃなかった?」
「そう?きっとビックリしちゃったんだよ!?だってこんなに早くデキただなんて誰だって思わないもん!」
「そうかな?…そうかもね、ウフフ、二人で頑張ったモンね!」
「いやー、でもデキて良かった!夏休みの宿題。じゃあ予定通りアカネさんトコでも行こうか!?」

・ ・ ・

「……」
二人が去った居間、入れ直した紅茶をゆっくりと口に運びながら、理恵ママが遠い目で窓の外を眺めている。
そしてやがて、そのカップをコトリとテーブルに置いて―――

「名前は何がいいのかしら?女の子だったら『なのか』ちゃん、なんてどう!?」


だから勘違いですってば!奥さん!








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