本当に!
「ねえ、ひかり」
残暑もひと段落といった感じのとある日のとある朝、洗面所で顔を洗っていると
背中からアカネさんの声が聞こえて来た。
「なんですか?」
ふわふわのタオルを顔にフワッと当てて、それから返事をする。
「来週の日曜日ってひかりの誕生日だよね。だからさ、ひかると三人でネズニーランドでも行かない?」
「ネズニーランド…ですか!?」
拭き残した水滴が頬を伝って床へとポタリと落ちた。
ネズニーランド。そこは夢の国。
TVでしか見たことはないけれど、そう言えばいつだかクラスメイトが
『見て見て!一緒に写真とっちゃった!』『ショーも一緒に踊ったしぃ』『パレードもバッチリ!!』
などと、とっても楽しそうに話すのを聞いた事がある。
―――写真、踊り、パレードかぁ…
楽しそうな自分の姿(ネズミ耳のカチューシャ付き)がはっきりと見えた。
うむ、行きたい。とっても行きたい。モーレツに行きたい。でも、でもなぁ…
「お店、大丈夫なんですか?」
「そんな事気にしてるの?そんなの些細な事だって。ひかりの誕生日のがずっと大切に決まってるじゃない!」
「…!アカネさん!」
「ね、だから行こう!?」
「はい!」
「―――なんてアカネさん言ってくれたんです!」
「へぇ良かったじゃん。ひかりはネズニーに行くの初めてだよね?」
「今から楽しみね、ひかりさん」
「ええとっても!ウフフ、お土産沢山買ってきますからね!」
なぎささんにほのかさん、それに奈緒に美羽、それから……
エヘッ、お小遣い足りるかな?
* * *
で、当日―――
『大変強い勢力を持った台風9号は現在………』
ピッ
『夕方頃まで強い雨と風が……』
ピッ
『鉄道も高速も各地で……』
パチン
とテレビを消して、溜息を吐きながらアカネが首を振る。
「はぁ…。これじゃあドコにも行けないよ、マイッタな…」
「しょうがないですよ、台風ですもんね…」
「ひかり…」
無理しちゃって。そんな寂しい顔したらバレバレだよ。
まったく台風のバカ!バカバカ!この子がどんだけ楽しみにしてたと思ってるのよ!?
「あーもぅ!」
「アカネさん、どうしたの?」
「…ひかる」
そうだ、ひかるにはナイショにしといたんだっけ。
いきなりで驚かせようとしたんだけど、それが皮肉にも正解だったなんてね…
「何でもないよ。ちょっと雨がイヤだなって思っただけ」
「ふーん。…ねえ、トランプでもやらない?」
「え?トランプ…?」
「うん。だってヒマでしょ?ひかりお姉ちゃんも一緒にやろうよ、ね?」
「私も?」
ひかるの無邪気な笑顔に二人が顔を見合わせる。
トランプか…そうだよね。いつまでもグジグジしてても変わらないんだし、
それならそれで今出来る事で楽しまなくちゃね。
「うん。いいよ」
「言っとくけど、アタシはかなり強いからね!?」
・ ・ ・
「はい上がり!」
「ボクも!」
「えーっ!?またアタシの負け!?」
そんなアカネの声に、二人がアハハウフフと笑い声を上げた。
そりゃそうだ。あんだけ大見得を切ったのにトランプも双六も連戦連敗なんだから。
「このアカネさんの腕も鈍ったかねぇ…」
苦笑いして、気分転換しようとゴロッと寝転ぶ。
窓の外を見ると雨風共に大分弱くなっており、どうやらピークは去ったらしい。
と、胸の痛みが再びチクリと甦ってきた。
「…ゴメンねひかり。せっかくの誕生日なのにこんな事くらいしかしてやれなくてさ」
「ううん、そんな事ないです。確かにネズニーに行けなかったのは残念だったけど、でもそのお陰でこうやって遊べました。
こういうのって凄く『家族』って感じがして、私とっても嬉しいんですよ」
「ひかり…あんた…」
ああもうホントにイイ子だよ。ちょっと抱きしめちゃおうかな。
―――ピンポーン
「ん?誰だろ?ハーイ…」
がちゃり
「どなたで…」
「やっぱり家に居た!」
「こんにちは、アカネさん!」
「なぎさ!?それにほのかまで…一体どうしたの!?」
意外なお客に目が丸くなった。
「どうしたのって、ひかりの誕生日のお祝いに決まってるじゃないですか!?」
「雨も弱くなったし来ちゃいました!」
「いや…来ちゃいましたって…」
思わずポカーン。
しかしそんなアカネにニッと微笑んで「おじゃましまーす」と二人が家の中へと上がり込む。
「ひかり、誕生日おめでとう!ケーキもプレゼントもちゃんと持ってきたよ!」
「おめでとうひかりさん!」
「お二人とも、どうして…?」
こっちもポカーンだ。
「台風だし、きっとドコにも行けなかったんじゃないかなと思って」
「そう。だからそれなら、あたし達で思いっきりお祝いしようってほのかと決めたの」
「…だってさ。ひかり、良かったね」
いつのまにかそばに戻っていたアカネが、ポンとひかりの頭に軽く手を乗せた。
「アカネさん…」
その温かさに何だか胸がギュッとなって、熱いものが瞳に込み上げてくる。
「うん!」
「よーし、じゃあさっそくケーキ食べない!?」
「もぅ、なぎさってばさっそく過ぎ!」
「そうだよ。それにまずはプレゼントが先でしょーが!?」
「ウフフ。私はどっちでも良いですよ」
そうよ。どっちでもいいの。
だってケーキとかプレゼントとかよりも、もっと嬉しいモノを貰えたんだもん。
「みんな、私とっても幸せです。本当に今日は最高の誕生日!」
〜おしまい
…あ、ちなみにネズニーランドには、ちゃんと次のお休みの日に連れて行ってもらったんだってさ。
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