輝きをもう一度
―前編―
希望の園―――遠い遠い遠い、遥か彼方の空に浮かぶ希望の世界
一年程前、この世界はかつてない危機に直面した
希望の象徴である「ダイヤモンドライン」が、邪悪なる魔女により奪われたのである
世界を闇で包み、闇の支配者ジャアクキングの復活を目論んだ魔女
しかし、その野望は信じる力と勇気により打ち砕かれ、ダイヤモンドの輝きと共に再び平和が戻ってきた―――はずだった…
そう、この地で、再びそれは起こったのである―――
* * *
「ハイ…フン…ホォ…」
きらびやかに輝く一室で、一人のひつじがカエルの像に向かい、何やら奇妙に手を動かしている。
そしてそれを何度か繰り返した後に「ホイ!」と力強くポーズを決めると、像の口がパカと開き、中から一個の小箱が姿を現した。
「どれ…」
と慎重に小箱を手に取って蓋を開けるひつじ。
その中にある輝きを確認すると、うやうやしくそれを隣へと差し出す。
「相変わらずの輝き……さすがはダイヤモンドラインですな、女王様」
女王様―――そう呼ばれた人物はもちろん希望の園の女王。
と言う事は当然、ひつじも「羊」ではなく「執事」である。
「希望の象徴ですもの。それも当然でしょう…」
「そうでしたな…さて、そろそろ参りましょう?皆女王の登場を待っております」
「そうですね…」
執事の言葉に促され、そっとダイヤモンドラインを手に取る女王。
だがそれを身に着けた瞬間、どうしたのかふと陰のある表情をした。
「去年の出来事を思い出しておいでですかな?」
執事の呼びかけに、女王が静かに目を閉じる。
「大丈夫、あのような事はもうありますまい…。魔女は伝説の戦士プリキュアによって倒されたではありませんか?」
「プリキュア……」
その姿を思い出しながら名前を口ずさむ女王。やがて目を開くと、執事に微笑みを向けた。
「行きましょう。皆希望の光を待っていますものね」
・ ・ ・
パッパカパパパ―――
音楽隊のラッパの音が、真っ青な空の下に高らかに響き渡る。
やがてその音を背に女王が姿を現すと、広場に集まった住人達から割れんばかりの歓声が沸き起こる。
その声に笑顔で応える女王。身につけたダイヤモンドラインが眩しく輝いている。
―――女王様バンザイ!
―――希望の園バンザイ!
そんな鳴り止む気配のない歓声の中を、ゆっくりと女王が進んで行く。だが、半ば付近まで道を進んだその時
「うぅ…」
と突如として胸を押さえ、その場にうずくまってしまった。
「女王様!?」
突然の異変に王子と執事が慌てて駆け寄って行く。
そして女王を抱え起こそうとした二人だが「うわぁ!?」と王子が小さく悲鳴を上げた。
「こ、これは…!?」
驚く王子。しかしそれも無理はなかった。
何故なら王女が首から掛けていたダイヤモンドラインが輝きを失い、それどころか黒く変色していたからである。
「一体どうなってるんだ…?」
「分かりませぬ。しかし、まずは女王様を宮殿へお運びするのが先決かと…」
「う、うん…」
執事の言葉に肯く王子。女王を支えて二人が宮殿の中へと戻って行く。
空にはいつの間にか、何かを暗示するような不気味な暗雲が近付いており、
そして結局その日以来、女王が皆の前に姿を現すことは無くなった。
* * *
―――ポツ…
「…雨?」
鼻の頭に感じた冷たさに、なぎさが憂鬱そうに鉛色の空を見上げる。
「そうみたいね」
そう言って手にしていた傘を広げるほのか。そして、なぎさの方へ視線を移すと
「…なぎさ、傘持ってないの?」
と、心配そうに声をかける。
「うん…。夜まで降らないと思ったんだけど…」
ハァとため息をつくなぎさ。だがそんななぎさに、ほのかがニッコリと微笑みながら救いの手を差し伸べる。
「それなら私の傘においでよ?ちょっと大きめの傘だから、二人でも全然大丈夫よ!?」
「いいの?」
「モチロンよ!ホラ、早くしないと濡れちゃうよ?」
「うん!…ありがとう、ほのか!」
本降りとなる雨の中、濡れないように身を寄せ合って歩く二人。周囲でも色とりどりの傘の花が美しく咲いている。
と、そんな中で
「あら?あの傘ってもしかして……?」
ほのかが通りの向こうに、ジッと佇む一つのピンクの傘を発見した。
「ひかり、どしたの?」
「何か観察しているの?」
「あっ、なぎささん!ほのかさん!」
突然の二人の呼びかけに、ひかりが驚いたように振り返る。
しかし、すぐに笑顔に戻ると、スッと地面を指を差す。
「このコを見ていたんです」
「このコって…」
―――ケロケロッ
「カエル?」
「はい。何だか思い出しちゃって…。一年前のこの時期でしたよね…?」
懐かしむような眼差しで二人に答えるひかり。
そしてそんなひかりの眼差しに、二人も共に思い出を語りだす。
「そうね…。何だかとっても懐かしいわね…」
「なんかピンチの連続だったよね?」
「そういえばなぎさ?船が爆発した時は本当に心配だったんだから!」
「あたしだってドキドキしたよ!タルが壊れたらどうしようって…」
「ウフフ…なぎささん、泳げませんもんね」
可愛らしいなぎさのドキドキの理由に、ひかりがクスリと笑う。
「エヘヘ…それにしても、あの魔女強かったよね?」
「うん。本当に強かった。でも…」
「でも、最後はみんなの勇気が私達に力を与えてくれたんですよね…」
そう言って、その時の熱い気持ちを再び思い起こしたのか、ひかりが胸に手を当てる。
「ひかりさん…」
そして、ほのかもひかりに倣って、そっと胸に手を当てる。
だが―――
「あーあ、それにしてもやっぱりあの時に、一個くらいダイヤモンドを貰っとけば良かった!」
その感動を吹き飛ばすように、なぎさが残念そうに声を上げた。
「もぅなぎさったら!そんな事言わないの!」
「じょ、冗談だってば…!いやだなぁ、ほのかってば。本気にしちゃって…」
「でもなぎささん、冗談には聞こえませんでしたけど…?」
「コ、コラ、ひかり!?」
少しうろたえながら、なぎさがひかりへと慌てて向き直る。
そしてそんな慌てた様子に、ほのかも「フフ」と思わず笑みを零す。
「もういいよ。ちっとも信じてくれないんだから…」
二人の態度にブーとむくれるなぎさ。だがふと真顔に戻ると
「みんな元気にしてるかな…?」
と呟いて、カエルへと再び視線を向けた。
が、その時―――
「プリキュア殿!」
「うわわわわぁぁっ!?カエルが喋ったぁ!?」
目の前で起きたアリエナイ光景に、なぎさが驚きの声を上げる。
「ちょっとほのか!ひかり!?今の聞いたでしょ!?今カエルが…?」
そして二人の方へと振り向くなぎさだったが、次の瞬間、思わず言葉を失った。
「お久しぶりです!」
「よう」
「ラウンド、スクエア、マーキーズ…みんな!一体どうしてここに!?」
「お前達言ったろ?力が必要になったときはいつでも呼びに来てって…。だから来たんだ」
と、ひかりの言葉に少しソッポを向きながらスクエアが説明する。
「え?それって…」
「詳しい理由は後でゆっくり話します!」
「とにかく来て下ちゃい!」
「ちょっと待ってよ…来て下さいって、ドコへ?」
とここで、今まで呆気に取られていたなぎさがようやく口を挟む。
しかしそんななぎさに、ラウンドがキッと振り返る。
「もちろん希望の園です!」
「冗談でしょ!?あたし達にだって都合が…」
だが―――
「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ!あわせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ!」
「えええっ!?マジで!?志穂達と予定があるのにぃぃぃぃ―――」
―――
――
―
* * *
「…ったくもう、強引なんだから」
「スミマセン。でも、我々も急いでいるんです、一刻を争うかもしれないので…」
しょうがないな――といった感じのなぎさの一言に、ラウンドが軽くペコリと頭を下げる。
「あら、謝る必要なんかないわ。だって私達約束したんだもの、また力になるって!」
「ほのかさんの言う通りです。約束を守るのは当然ですから…そうですよね?なぎささん」
「そうだね。確かにイキナリで驚いたけど、私達の力が必要なんだもんね!?」
「プリキュア殿、ルミナス殿…!」
三人の言葉に感動するカエル達。
だがその輪からスクエアが一人ツカツカと離れると
「ホラ、お話はそこまでだ。さっさと行くぜ!?」
と皆を急かす。
「フフッ、スクエアは相変わらずね?」
「スクエアも本当は皆ちゃまに会えて嬉しいんでちゅ。だから照れてるんでちゅ!」
「う、うるさいな!行くぞ!?」
照れ隠しかさっさと歩き出すスクエア。皆もそれに続いて行く。
とその時、なぎさがふと何事かに気が付いたように恐る恐る問いかけた。
「ところで、こうやって行くってコトはまさか今回も―――」
「ハイ、歩きですけどそれが何か…?」
「…ありえない」
・ ・ ・
―――ザー…
「はぁ…」
降りしきる雨をカウンター越しにぼんやりと眺めながら、アカネが一つため息をつく。
「パッタリとお客さんが途絶えちゃったよ、マイッタな…」
もう一度ため息をついて車内へと顔を向けると、そこにはスヤスヤとお昼寝をするひかるの姿。
「…ひかりも早く帰ってくればいいのに」
そうポツリと呟いて、再び雨へと視線を戻す。
「通り雨だといいんだけど…」
* * *
「ハァ…ハァ…ようやく着いた。こんなに遠かったっけ!?」
宮殿の下に到着するや否や、なぎさが思わず道程への愚痴をこぼす。
「もぅ…ラクロス部の一年生エースなんでしょ?そんな情けない事言わないの」
「それとこれとは話が違うって…。ね、ひかり?」
「どうでしょうね…」
上手くなぎさの言葉をはぐらかすひかり。そして代わりに
「それにしても―――」
と宮殿を見上げる。
「これが全部ダイヤモンドだなんて未だに信じられません…」
「本当に…!」
その輝きに見とれる三人。
だがすぐに
「さ、行きましょう」
と先へと促され、中へと入っていった。
・ ・ ・
「ねえ、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」
シンと静まり返る宮殿内で、先を行くラウンド達になぎさが声をかける。
「そうね。一体どうして私達を希望の園に連れてきたの?」
「空もあんなに曇っていたし、何があったんですか?」
なぎさに続いて問いかけるほのかとひかり。
だがそれらにハッキリと答える代わりに
「…ま、百聞は一見に如かずってヤツさ」
とスクエアが意味深に諺を口にする。
「どう言う事…?」
「…ほら、着いたぜ」
その言葉通り、いつの間にか三人は女王の部屋の前までやってきていた。
「女王様、プリキュア殿達を連れて参りました」
扉の前に立ち、ラウンドが中へと呼びかける。
「……………」
だが、一向に返事が返ってこない。
その不自然さに
「返事が無いみたいね?」
「誰も居ないのかしら…」
「一体どうしたんでしょう?」
と三人が顔を見合わせる。
とその時、ギィと言う鈍い音と共に、扉がゆっくりと開かれた。
「失礼します…」
遠慮がちに中へと入る三人。
しかし、やはり誰の姿もそこには確認できない。
「やっぱり誰もいないのかな…?」
空の台座を見つめながら、なぎさが不思議そうに呟く。
だがふと隣を見ると、ラウンド達は横のもう一つのドアの方へと向かっている。
「ちょっと待って!?どこに行くの―――」
慌てて後を追うなぎさ。そして開け放たれたドアから中へと飛び込むと
「―――女王様!?」
辛そうにベッドに横たわる女王の姿がそこにはあった。
「君達は…来てくれたんだね」
「王子様!一体女王様になにがあったんですか!?」
ベッドの傍らに立っている王子に三人が駆け寄る。
だが王子は静かに首を横に振る。
「こっちが聞きたいよ…。ただ、おそらく原因はあれじゃないかと…」
「あれ…?」
そして王子の指差す方へと視線を向ける。
「あれは…ダイヤモンドライン!?」
「でも黒い…どうして!?」
変わり果てたダイヤモンドラインに驚く三人。そんな彼女達に
「俺達にも分からないんだ…」
とスクエアが無念そうに答える。
「もうこうなってから半月になる。そしてその日以来、希望の泉はかろうじて平気だけれども、
空には雲がかかって女王様もこの通りに…」
「そんな…」
「どうしてこんな事に…」
やりきれない気持ちでぐっと拳を握るなぎさ達。
だがその時
―――知りたいのかい?
不気味な声が、突然どこからか聞こえて来た。
「誰!?」
「出てきなさい!」
身構える一同。
「フフフ、待ちくたびれたよ…プリキュア」
「天井!?」
そして聞こえて来た声に上へと視線を向けると―――
「あなたは…!」
「まさか!?」
「魔女!?」
そこには忘れもしない邪悪な魔女がいた。
「どうして…!?お前はプリキュア殿達にやっつけられたはず!?」
「まさか、ダイヤモンドラインも女王もお前の仕業か!?」
「…さあね」
「さあねって、あんたに決まってるじゃない!ほのか、変身するよ!?」
「ええ!」
『デュアル・オーロラ・ウェーイブ!!』
―――光りの使者、キュアブラック
―――光りの使者、キュアホワイト
―――闇の力の僕たちよ!
―――とっととお家に帰りなさい!
ビシッとポーズを決める二人。だが魔女は、何故か満足そうに醜い笑みを浮かべる。
「変身したね?まずはお手並み拝見といこうじゃないか…ザケンナー!!」
「ザケンナー!」
魔女の呼びかけと共に数匹のザケンナーが現れる。
「でたわね〜。許さないんだから!」
「ちょっと待ってブラック。ここじゃ不味いわ…」
「そうです。ここには女王様も王子様もいるし、万が一の事があったら…」
「おい魔女!テメェの相手をしてやるから、外にでやがれ!」
「フン、外か…。まあいいさ、どっちだって関係ないからね、絶望には…」
・ ・ ・
―――ザー…
「随分と降りますねぇ…ねえ忠太郎?」
「ワォン…」
「あら、やっぱり忠太郎もそう思うの?本当に嫌な雨だこと…」
「クゥーン…」
「ほのかに何もなければいいけど…」
* * *
「さて、お望み通り外へ来てやったんだ。そろそろいいだろう?」
「おぅ!いつでも来いってんだ!!」
「オヤオヤ、威勢がいいねぇ。だけど、どこまで持つかな?行け、ザケンナー!!」
「ザケンナー!!」
魔女の声を合図に猛然とプリキュア達に襲い掛かるザケンナー。
だがその攻撃を二人はヒラリとかわし、逆に隙を見ては
「ハッ!」
「エエィ!」
と一撃を食らわして行く。
そしてその隣では、カエル達もザケンナーには負けてはいない様子である。
「やるじゃん、みんな!」
「当たり前です。こう見えても僕達は希望の園の戦士ですから!」
胸を張る戦士達。その姿にフフと微笑んで、ホワイトとブラックがザケンナーへと突っ込んで行く。
「ダァーッ!」
「ハァーッ!」
二人の圧力に思わず後退するザケンナー達。そして陣形を立て直す為か一ヶ所に集まった。
「見てホワイト!ザケンナーが…!!」
「ええ。チャンスね、ブラック!」
機を察知して二人が頷き合う。
「ブラックサンダー!」
「ホワイトサンダー!」
「プリキュアの美しき魂が!」
「邪悪な心を打ち砕く!」
「プリキュア・マーブルスクリューマックス!!」
放たれる必殺技。そして
「ザ、ザケンナー……」
と見事にザケンナーどもを一気に粉砕した。
「どう!?次はあんたの番よ!」
「ダイヤモンドラインと女王様を元に戻してもらうわ!」
ザケンナーを倒した勢いそのままに、二人が魔女へと力強く言い放つ。
だがそんな二人に対し依然として余裕の笑みを浮かべる魔女。そして驚くべき事実を口にした。
「中々やるじゃないか…さすがに妹を倒しただけのことはあるねぇ」
「妹…!?じゃああなたあの魔女の…」
「そう、姉さ」
「…じゃあまさか、復讐の為にあんな事をしたわけ!?」
「まあそれも一つではあるね」
「一つって、他にどんな理由があるって言うの!?」
「これ以上言う必要は無いだろ、お前達には関係無い事だからね」
熱くなる二人に冷たく言い放つ魔女。そして
「…さてと、そろそろ終わりにしようか」
と呟いて、二人へと身構える。
「終わりって、終わるのはあんたの方よ!」
「そうよ!あなたは私達が止めてみせる!」
魔女に飛び掛っていく二人。だが
「言うじゃないか!だが私はザケンナーとは違う!」
「キャァァ!?」
魔女の手から放たれた衝撃波が二人を吹き飛ばす。
「プリキュア!くっ…今度は俺達だ!」
そんな二人を見て、今度はスクエア達が立ち向かう。
「フン!チョロチョロと目障りなカエル達め!」
しかしそんな彼らに魔女が再び衝撃波を放つ。
「ウワァ!」
「みんな大丈夫!?」
叫び声と共に吹き飛ばされた皆にブラックが声をかける。だがどうやら意識を失っているらしく返事が返ってこない。
「みんな…。…っ、絶対に許さない!」
「ホゥ…絶対に許さないってのはどういう事かな?」
「きまってるじゃない…あんたをやっつけるって事よ!ホワイト!!」
「ええ、ブラック!!」
ブレスを召還して装着する二人。そして
『プリキュア・マーブルスクリューマックス・スパーク!!』
怒りを込めた一撃が、魔女へと向かって唸りをあげる。だが―――
「言っただろ!?私はザケンナーとは違うって!…フンッ!!」
両の腕に力を込めて、魔女がマーブルスクリューを受け止める。
「ハァァァッ!!」
そして気合一閃、それをはね飛ばした。
「あのマーブルスクリューが…」
「はね飛ばされた…」
茫然とする二人に魔女がユックリと近付いて行く。
「これが私とあんた達の力の差。さて、そろそろお寝んねの時間だよ…ハァッ!!」
「グッ…!?」
「かっ……!」
至近距離から魔女の攻撃を受けた二人。そして共に意識を失った。
「フフ…口ほどにも無い。さて、それじゃアレを頂いて行くか……」
―――後編へ続く
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