交わりの物語
「うわぁー!!見て見てほのか、ひかり!海だよ海!」
軽快に街道を走るワゴンから、元気の良いなぎさの声が聞こえてくる。
「ちょっとなぎさ?そんなに大声出さないでよ。ひかるが起きるでしょうが…」
「でもアカネさん、すっごい綺麗なんだよ!?青い空、青い海、そして木々の緑…もう最高!」
「まあ感動する気持ちも分かるけどね。何てったって、あたしの一番のオススメの土地なんだし!」
なぎさの言葉に、ハンドルを握る手に力を込めながら答えるアカネ。
とその時、そんな二人のやり取りを静かに聞いていたほのかが、ふと口を開いた。
「アカネさん、ココに来たことあるんですか?」
「うん、修行時代にね。その時は丁度夏祭りの時期だったんだけど、星がスッゴク綺麗だったんだ!
一人前になったら絶対にまた来ようって思ってたんだけど、今日まで中々タイミングが無くてね…」
「思い出の土地なんですね。でも本当に素敵な風景…」
そんなほのかの言葉に同調するように、暫らくの間皆無言で景色に見入る。
先ほどとは打って変わって静かな車内。
だが町が目前に迫ってきた時、その静寂を破りアカネがバックミラー越しに皆に呼びかけた。
「さて、そろそろ町に着くけど、宿に行く前にまずはたこ焼き売りまくるからね!?」
「はーい!」
* * *
「それにしても完封なんてスゴイね!」
「でしょ!?だって今日は絶好調だったんだもん!ホラ見て!?」
試合からの帰り道、改めて喜ぶ舞に、咲がボールを握った手をグルグルと回して見せる。
「咲、もし手が滑ったら危ないよ?」
「大丈夫だって!そんなヘマしないって!」
舞の言葉もどこ吹く風、調子に乗って咲がさらに素早く手を回す。
だが―――
「あ……!」
舞の心配が的中した。
解き放たれたボールが、勢い良く飛んで行く。そしてその軌道の先には一人の少女の姿が…
「ダメー!避けて!」
叫ぶ咲。しかし少女にはまったく聞こえていない様子。
そして最悪の事態が―――
「危ない、ひかり!」
が、まさに間一髪。寸でのところでなぎさがボールをキャッチした。
「ゴメンナさい!手が滑っちゃって…」
謝りながら咲が慌てて走り寄って来る。
そんな咲になぎさが
「もう、気をつけてよね!?」
とポンとボールを投げて返す。
ヒョイと受け取る咲。だがオヤと不思議な顔をすると
「アレ?あのココって…」
「たこ焼き屋だよ」
咲の疑問にカウンター越しにアカネが答える。
「昨日までは無かったですよね?」
「そう。今日と明日だけの特別営業!今から営業開始なんだけど、食べてく?」
アカネの言葉に見る間に咲が満面の笑顔になる。そして
「もちろん!みんなおいでよー!」
* * *
「はむ……美味しいー!!」
「ホントだ!外はカリカリで中はトロトロ…こんなたこ焼き初めて!」
作りたてのたこ焼きの味に少女達が歓声を上げる。
「でしょ!?アカネさんのたこ焼きは本当に最高なんだから!あたしなんか毎日食べてるよ!」
自慢げに話すなぎさの言葉に「いいなー」と咲が羨ましそうな顔をする。
とその時「あの―――」と、舞が話かけてきた。
互いに自己紹介をする一同。だんだん打ち解け合い、話も弾んで行く。
やがてここに来た理由をアカネが話し終えると、舞が残念そうな表情をなぎさ達に向ける。
「じゃあ、みなさん明日で帰っちゃうんですか?」
「うん、残念だけど…。私たちもこの土地の事、自然の事をもっと知りたかったんだけど…ね、なぎさ?」
仕方がないといった感じで、ほのかがなぎさへと視線を向ける。
その言葉になぎさも「うん」と頷く。だが―――
「なら私が案内してあげる!」
「…え!?でも…」
思いもよらない咲の言葉に、遠慮気味になぎさがアカネを見る。
「いいよ、行っといで。店はあたしひとりで大丈夫だからさ」
「いいえ私も残ります」
「ひかり!?でもあんた…」
「いいんですアカネさん。ひかるも居るし…。だからなぎささんほのかさん、お二人で行って来て下さい」
ひかりの心遣いに二人が顔を見合わせる。
「じゃあそうしようかな…?ね、ほのか?」
「そうねなぎさ…。じゃあ咲さん、お願いできるかしら?」
「モチロンなり!じゃあ明日の朝、私の家で待ち合わせね!」
ドンと胸を叩く咲。そして勢い良く椅子から立ち上がる。
「私の家『PANPAKAパン』てパン屋だからすぐに分かると思う!じゃあゴチソウさま!」
ワイワイと去って行く夕凪の面々を見送りながら、ほのかがクスリと笑ってなぎさに話しかける。
「元気の良い子だったね…。何だかなぎさみたい!」
「えー、そう!?あたしあんな感じなの?」
「いやー、もっと騒々しいかもね!」
「ちょっとアカネさん!?ひかりまで笑って…もう、ありえない!」
* * *
「それじゃあ今日はよろしくね!?」
焼きたてのパンの香りが漂ってくる裏庭――もちろん咲の家の――で、なぎさが咲に微笑みかける。
「任せて!ね、舞!?」
「咲はこの町のこと本当に良く知ってるもんね」
「あったりまえ!この町で生まれ育ったんだし、それに大好きだから!」
そう言ってニッと笑顔になる咲を、舞が眩しそうに見つめる。
「二人とも仲がいいのね。小さい頃からお友達なの?」
そんな二人の様子から連想したほのかの質問だが、「いいえ」と首を振って舞が答える。
「私、この4月に転校してきたんです。でも―――」
「でも、小さい頃に一度だけ舞に会ったことがあるんです!夏祭りの時に大空の木の下で…」
「大空の木?」
咲の言葉になぎさが不思議そうな顔をする。
「ずーっと昔からこの町の森にある木のこと!私にとってはそこは特別な場所なんです。きっと二人もその場所を一発で気に入ると思うな!」
「フフッ!楽しみ!」
「期待してて下さいね。じゃあ咲、そろそろいきましょ?」
「そうだね!まずは―――」
咲を先頭に歩き出していく4人。だが―――
「今日こそは聞き出してやるからな…覚悟しろ」
その上空から、不気味な影が彼女達を見つめていた。
* * *
木々の間から、木漏れ日が柔らかに差し込んでいる。
そして、その光を浴び「ハア」と深呼吸しながら、「それにしても―――」となぎさが咲に話しかける。
「本当にこの町って素敵だよね!?海の匂い、木々の温もり、それに美味しいチョココロネ!」
「でしょ〜!?お父さんが作るチョココロネって最高なんですから!フワフワのパンと蕩けそうなチョコ…う〜ん、まさに絶品なり!」
顔をほころばせながらの咲の言葉になぎさも「本当なり〜」と相槌を打つ。
「もぅ…『なり』じゃないでしょ…」
そんな二人の様子に苦笑いをし、ほのかが舞へと振り返る。
「ところで、今度はどこに向かっているのかしら?」
「きっと大空の木です」
「大空の木って、さっき咲さんが言ってた…?」
「はい。でしょ、咲?」
「うん!もうスグですよ。ホラ、ちょっと見えて来たでしょ!?」
咲の言葉に坂の上に意識を向けるなぎさとほのか。確かにひと際背の高い緑の葉が見える。
そしてそれは坂を上る毎に徐々に大きくなって行き、やがて上りきったその時、完全な姿を現した。
「あ…」
「すごい…」
目の前にある圧倒的な存在感を放つ一本の巨大な古木。そのオーラに、二人とも思わず言葉を失ってしまう。
だがやがて、ふと思い出したかのように、ほのかがポツリと呟いた。
「ひょっとして、コレってトネリコの木…?」
「スゴイ!よく知ってますね雪城さん!」
そのほのかの言葉に舞が驚きの声を上げる。
「フフッ、たまたま本で読んだことが有るだけだから。それよりもトネリコって北欧の方じゃ聖なる木、
世界樹って呼ばれてて、世界を支える大切な神木とされてるんですって」
「へぇ…その話の通りこの木も凄く神秘的だね。何だか本当に神様が住んでそう…」
感心したようになぎさが視線を頭上へと移していく。とその時―――
「私、時々こうやってこの木と会話するんです。試合の前とか、ちょっと落ち込んだ時とか、そう言う時に…」
と咲が幹に手を回しながら静かに口を開いた。
「そうすると、何だか元気をもらえる様な気がしてきて…」
そう言って目を閉じる咲。そんな咲にほのかが優しく語りかける。
「この世界の生きる物全てには精霊が宿ってる…っていう言い伝えが何処かには在るらしいわ。だから…」
「うん。きっと精霊が元気をくれたんだね…」
「ほのかさん、なぎささん…!」
二人の言葉に、咲の顔に感動が広がって行く。そして―――
「二人ともすっごい素敵な人!もうとっておきの場所へ案内しちゃいます!」
「とっておき?咲、それってどこ?」
そんな満面の笑顔の咲に、舞がちょっと首を傾げて問いかける。
「舞も連れてった事あったでしょ!?この先にある、町が見渡せるあそこだよ!」
「ああ!あそこね!あそこなら絶対に良いよ!」
「でしょ!?それじゃ行きますよ!」
* * *
小道を抜けると、一枚の絵画のような景色が広がっていた。
「うわぁ…!」
「綺麗…!」
その景色のあまりの素晴しさに、なぎさとほのかが感嘆の声を上げる。
そして
「海も山も町も、ここなら全部感じることが出来る…。だから私のイチオシの場所なんです!」
と胸を張る咲の言葉に、「納得だね」と二人で頷き合う。
「風が気持ちいい…」
「…ホントだね」
吹き抜ける風を、瞳を瞑り全身で感じる二人。咲と舞もそれに倣って目を閉じる。
耳に聞こえてくる風の音が、たまらなく心地良い。
そしてそれに乗って、何だか彼方に見える海の音さえも聞こえて来る様な気がしてくる。
だが突然―――
「いけない!」
と、舞が慌てた声を出した。
「どうしたの舞?」
「私、大空の木の所に筆箱を置いたままだった!ちょっと取りに戻るね!?」
「待って、私も行くよ!」
舞を追いかけようと駆け出す咲。だが「あっ…」と足を止め二人へと振り返る。
「私達は気にしないで?暫らくココに居るから」
「うん。ちょっとしたらさっきの木の所に戻るよ!」
ニッコリと咲に答える二人。
そんな二人に
「ありがとうございます!」
とペコリと頭を下げて、咲は舞の後を追いかけて行った。
・ ・ ・
「あった!良かった…」
忘れ物を見つけて、舞がホッと胸を撫で下ろす。
「…ハァハァ…ここは滅多に人も来ないから、そうそうは無くならないって!」
ようやく追いついた咲が、息を弾ませながら舞に声をかける。
「でも、とっても大切なものだから…」
「そうか…そうだよね。舞にとっては絶対に大事なモノだもんね!?」
「うん…。それにね、描きたいモノが見つかったの!」
舞のその言葉に、咲が少し驚いた顔をする。
「え…?それって何?」
「それはね―――」
微笑む舞。そして咲の疑問に答えようと、舞が続きを言おうとした瞬間―――
「俺の事でも描いてくれるのか?格好良く頼むぞ」
何処とも無く聞こえてきたその声に、バッと二人が振り返る。
「カレハーン!」
「またあんたね!?もう、ほん〜っとにしつこいんだから!!」
「ウルサイ!ようやく邪魔者が居なくなったんだ!今日こそ泉の在り処を吐いてもらうぞ!やれ、ウザイナー!!」
―――ウザイナー!!
「咲!舞!変身するラピ!!」
「うん!」
「ええ!」
フラッピの言葉に二人がコミューンをクルリと回転させ腕を交差する。そして―――
『デュアル・スピリチュアル・パワー!!』
・ ・ ・
一方その頃―――
「さて、そろそろ咲達のところにもどろうか?」
「うん、そうね」
十分にこの素晴しい景色を堪能した二人が咲達の下へと道を戻りだす。
だが、10メートルも歩かない内に
「なぎさ!嫌な気配を感じるメポ!」
「ほのか、気をつけるミポ!」
と、メップルとミップルが緊張した声で二人に警告して来た。
ギュッと手に力を入れながら辺りの様子を伺う二人。
すると、側で隠れるようにして木の実を食べていたリスの瞳が突然妖しく光り出して―――ザケンナー!!
「どうして!?ジャアクキングは私たちが倒したはずじゃ…」
現れたザケンナーに、ほのかが驚きの声を上げる。
「ジャアクキングが居なくなっても、闇が完全に消えることは無いミポ!」
「だからこういう事も時々起こるメポ!」
「てことは、アイツははぐれザケンナーってワケ!?」
「行くよ、ほのか!」
「うん!」
ザケンナーの攻撃を避けながら、なぎさとほのかが視線を合わせる。
『デュアル・オーロラ・ウェーイブ!!』
* * *
「ありがとう御座いました!……さてと、ちょっと休憩にしようか、ひかり。ひかるもおいで?」
「はい、アカネさん!」
空の容器を片付けながら、ひかりがアカネの呼びかけににこやかに返事をする。
「でも、本当に行かなくて良かったの?」
「はい、いいんです」
「どうして?ひかりだって本当は行きたかったんでしょ?だったら遠慮せずに―――」
少し怪訝そうなアカネ。だがその疑問に、ひかりが静かに答えた。
「もっと一緒に居たかったから…。もっと沢山で大切な家族の思い出を作りたかったから…」
「ひかり…」
ひかりの言葉に胸が思わず熱くなる。
「あんたってコは、マッタク…」
そんなアカネに笑顔を向けて、「散歩に行きましょ?」と、ひかりがひかると共に公園の向こうへと歩いてった。
「それにしても……」
二人の後姿を暫らく優しく見詰めていたアカネだが、やがて真っ青な空を見上げてポツリと呟く。
「なぎさ達、今頃のんびりとオヤツでも食べてるんだろうな…」
―――ブンッ!!
「―――っ!!」
ザケンナーが振り下ろす鋭い爪を、ブラックが必死の形相で何とかかわす。
そして、後方に飛び跳ねて体勢を立て直しながら
「もぅ!下手に攻撃して怪我させる訳にもいかないし、一体どうすればいいのよ!?」
と困り顔で愚痴を叫ぶ。
可愛らしい野生動物に取り付いたザケンナーに、先ほどから二人揃って大苦戦であったのだ。
―――ザケンナ!ザケンナ!!
そんなことは関係ないとばかりに尚も容赦なく攻撃を繰り出してくるザケンナー。
「ホワイト!何か良い方法ないの!?」
間合いを取りながらブラックが思わずホワイトにアイデアを求める。
するとそれに何事かを閃いたのか、ホワイトがパッと顔を上げた。
「…そうよ!ブラック、アレをやりましょ!?」
「アレって?ホワイト、アレって何!?」
「セラピーよ!レインボーセラピー!」
「あー!………って何だけ?」
「ちょっとブラック!?」
そのおとぼけに、ホワイトがジロリとブラックを睨みつける。
「イヤー、だってずっと使ってないし……うわっと!」
言い訳中のブラックを再びザケンナーが襲う。だが…
―――ゴチン!!
ブラックの代わりに切り裂いた木が――間抜けな事に――頭を直撃し、一瞬動きが止まった。
「今よ、ホラ!」
それを見てホワイトがブラックに合図を送る。
「う、うん!」
「ブラックパルサー!」
「ホワイトパルサー!」
「闇の呪縛に捕らわれし者よ」
「今、その鎖を断ち切らん!」
『プリキュア・レインボー・セラピー!』
・ ・ ・
「ハハハ!どうだ、苦しいだろう!」
割り箸に乗り移ったウザイナーに挟まれる二人に、カレハーンが勝ち誇った顔を向ける。
「そうだな、泉の在り処を言えば解放してやらんでもないぞ?」
「誰があなたなんかに…!」
「そうよ!ぜぇ〜ったいに教えるもんですか!」
潰されまいと必死に耐えながら、それでも二人がカレハーンの言葉に反抗する。
「ホゥ…中々感心な事を言うじゃないか…」
そんな二人の態度に感心した素振りを見せるカレハーン。
だがニヤッと歪んだ笑みを浮かべると、サッと手を上げウザイナーに指示をした。
「ならばやってしまえ、ウザイナー!」
「ウザイナー!」
―――ググッ…!
「…ああっ!」
「んっ…!」
更に強まるウザイナーの圧力。最早、二人の限界も時間の問題かと思われた。だが―――
「…こんなのに負けるもんか!」
意識の集中と共に二人の腕が眩く輝きだす。そして
「ええい!!」
「えやー!!」
気合もろともウザイナーを撥ね飛ばした。
「何!?」
土煙を上げて倒れるウザイナーにカレハーンが焦りの表情を浮かべる。
そして、その様子を見た二人が、「うん」と視線を合わせた。
「大地の精霊よ…」
「大空の精霊よ…」
言葉に呼応するように、光が二人へと集まって行く。
「今、プリキュアと共に!」
「奇跡の力を解き放て!」
『プリキュア・ツインストリーム・スプラーシュ!!』
―――○×△◇!!
口々に感謝の言葉を述べながら解放されて行く精霊達。
それを忌々しげに見ながら
「くそっ!!」
とカレハーンが去って行った。
「また襲ってくるよね、アイツ…」
「うん。絶対にね…」
変身を解いて、ウンザリと言った感じで二人が顔を見合わせる。とその時―――
「おーい、咲!舞!」
「ゴメンね!?遅くなっちゃって…」
なぎさ達の声が聞こえてきた。
* * *
―――ザー…ザー…
寄せては返す波の音が、夕日と相まって何とも言えない感傷的な雰囲気を作り出している。
そしてその波打ち際で、なぎさとほのかが水平線の向こうを肩を並べて眺めている。
「あたし…」
そんな静かなオレンジ色の中で、なぎさがポツリと呟いた。
「この夕日を絶対にずっと忘れない…」
「なぎさ…?」
「だって、最高の親友と見た最高の夕日だもん。忘れることなんて出来ないよね…」
そのなぎさの言葉に、ほのかがそっと自らの手をなぎさの手へと重ねて行く。
そして優しく微笑んで、同じように呟いた。
「…うん。私も絶対に忘れないよ。なぎさと見た最高の夕日だもの…」
「あの二人、本当に素敵な二人だよね。ね、舞!?」
夕日に照らされる二人の姿に、咲が改めて感に入った様に声を上げる。
「………」
だが返事の無い舞。思わず咲が「…舞?」と振り返る。
「あ…」
そこには一心不乱にスケッチをする舞の姿があった。
―――静かにしてれば邪魔にならないよね?
そう心の中で自答して、咲が少し遠慮気味に舞の隣に座る。
そんな上空を、二羽のカモメが仲良く夕日の向こうへと飛んで行った。
* * *
―――CLOSED
夜の暗がりの中、店先に置かれた看板が今日は閉店した事を告げている。
「今日は本当にありがとう!」
「とっても楽しかったわ!」
そんな咲の家の前で、なぎさとほのかが二人にお礼を述べる。
「いいえ、こちらこそ!」
「私達の方こそとっても楽しかったです!」
笑顔を返す咲と舞。
そして、その和やかな空気がひと段落着いた時
「さて、そろそろ行こうか!?」
後ろで様子を眺めていたアカネが二人に呼びかけた。
「じゃあ、バイバイ…」
「さようなら…」
名残惜しそうに挨拶をして、二人がワゴンへと戻ろうとする。
だがそんな二人を
「あ、待って!」
と舞が呼び止める。そして
「あの…これ、プレゼントです」
と一枚の紙を差し出した。
「これってなぎささんとほのかさんですよね!?すごい上手…」
そこに描かれた絵を見て、ひかりが思わず目を丸くする。
「お二人を見てたら描きたくなっちゃって…。気に入るかどうか分からないですけど…」
「ううん!そんな事無いよ!すっごい気に入ったよ!」
「うん!大切にするわ!」
アリガトウの気持ちを伝える二人。
そして再度、今度は笑顔で、咲と舞にお別れを言った。
「じゃあ今度こそ本当に…」
「バイバイ!」
・ ・ ・
―――ブロロロ…
遠ざかるエンジン音。そして完全に聞こえなくなり、周囲に静寂が戻って来た。
「行っちゃったね…」
「うん…」
ワゴンが去って行った先を見ながら、二人が少し寂しそうに呟く。
「じゃあ私もこれで…」
やがて舞もバイバイを言おうと咲へと向き直る。がその時―――
「ねえ舞ちゃん、良かったら家で夕ご飯食べていかない?」
玄関先で見守っていた咲の母親が、舞を夕飯へと誘ってきた。
「え?でも…」
いきなりの提案に、舞が戸惑った表情を見せる。
「もう遅いし、遠慮せずにどうぞ。食べ終わったら家まで送っていってあげるから、ね?」
「うん!舞そうしなよ!?」
母親の言葉を咲も笑顔で後押しする。
「そう…?じゃあお言葉に甘えて…」
「やったー!そうと決まれば早く家に入ろ!?もうお腹ペッコペコ!」
「まったくこの子ったら…」
そんな咲の様子に、母が呆れた顔を見せる。
「だってしょうがないじゃん!?」
「でも咲らしいかもね?ウフフッ!」
「それもそうね…。舞ちゃん、良く咲の事分かってるじゃない!」
「ちょっと舞!?お母さん!?」
賑やかに家の中へと消えていく3人。その頭上では満天の星が輝いていた―――
・ ・ ・
遠ざかる街の灯りが、まるで夜空の星々のように輝いて見える。
「また今度来た時は…」
その光を窓越しに眺めていたなぎさだが、クルリと車内の方へと振り返る。
「その時は、あたしが案内してあげる!」
「はい!楽しみにしてます!」
ひかりがそのなぎさの言葉に嬉しそうに返事をする。だが、それとは対照的な声が運転席から聞こえて来た。
「なぎさぁ〜、あんた本当にそんな事出来るの!?」
「もぅアカネさん、大丈夫だって!」
「ハハッ、冗談だよ!」
笑いながら謝るアカネ。そしてむくれるなぎさを余所に
「ところで2日間どうだった?この土地の事気に入ったろ?」
と感想を聞いてくる。
「はい!もちろん!」
「だろうね。友達も出来たみたいだしね」
そのほのかの答えに、納得と言った感じでアカネが頷く。
そんなやり取りを聞きながら、なぎさが再び窓の外へと視線を向ける。
「絶対にまた来るからね…」
すっかり彼方へとなってしまった灯りを見ながら、なぎさが小さく、だが力強く呟く。
「だからそれまで―――」
―――バイバイ!
おしまい
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