もう一回!





―――ひらり

ひとひらの桜の花びらが、風に乗ってヒラヒラと舞っている。
穏やかに降り注ぐ日差し、柔らかにそよぐ風。これ以上ない程の麗らかな春である。
そしてそんな春のひと時を優しく見守りながら、二人の少女が寄り添うように座っている。
特に何をしているという事も無く、と言うよりも寧ろ何もせずに、ただ静かに座っているのだ。

―――ひらり
やがて、花びらが二人の目の前にゆっくりと舞い落ちて来る。
「…ねえ?」
とその時、髪の短い方の少女が僅かに視線を隣へと向けた。
「ほのか、いい?」
主語もなにも無いお願い。だけど、ほのかは戸惑う事なくごく自然に頷く。
「うん…」
「ありがと…」
そうお礼を言ってなぎさがそっと寄りかかる。
空には2羽の鳥が、まるで今の二人のように仲良くクルリと飛んでいる。
「…あったかい」
「ほんとう。もうすっかり春ね…」
「あはっ、違うよ。それもだけど、あったかいってほのかのコトだよ」
「え…?」
思わずキョトンとなるほのか。二人の視線がコツンとぶつかって、時が一瞬止まる。
と、次の瞬間、二人同時に弾ける様に笑い出した。

「ウフフ、もぅなぎさったら!」
「アハハ、ほのかだって!」
何が可笑しいのか分からないけれども、二人が楽しそうに体を揺らす。
でも先ほどのやり取りと同じで、彼女達にはちゃんとその理由が分かっているのだろう。
「ハァ…やっぱりほのかと居るとホント楽しい!」
「フフ、私もなぎさと一緒だと、どんなことでも楽しいよ!」
なんと言うか、初々しいカップルのような台詞である。
「ねえ、そう言えばほのかは覚えてる?あたし達が初めて話した時の事」
「初めて…?」
「何だ、ほのかってば覚えてないの?初めては流れ星についてのほのかの薀蓄だったんだよ!?」
「えっホントに?そうだったっけ?」
「ホントだって!」
笑顔で聞き返すほのかに、自信満々になぎさが頷く。
「じゃあ、なぎさは覚えてる?初めて二人で出かけた時の事」
「覚えてる覚えてる!確か、変な二人組にナンパされたんだよね!?」
「正確!行きたい所、食べたいもの、やりたい事…全部私となぎさで違ってた。だけど違ってたけど、
それが凄い新鮮でとっても楽しかった…」
当時の気持ちを思い出したのか、ほのかが語りながら目を閉じる。
「本当に色んな事二人でやって来たよね…。あたし、他にも覚えてるよ。大きなイベントだけじゃなくて、
合宿でのお喋りとかラクロスの応援で手を握ってくれた事とか、そういう小さな事もちゃんと覚えてる。
だって、あたしにとってはどれも大切な思い出だから」
「なぎさ…」
言葉の端々から零れ出てくるなぎさの想いに、ほのかの胸がジンと熱くなる。
「そうだね、私もそう言う事イッパイ覚えてるよ…」
そして、二人がフッと見つめ合う。
「…そうだ!せっかくだし、今から私達の新しい思い出を作らない!?」
「今から?いいけど、一体何するの?」
突然の提案に、興味深そうになぎさが首を傾ける。
と、そんな彼女の手に、ほのかがそっと自らの手を重ねた。
「それはね、こうするの―――」


「あ…」
柔らかな感触が、唇を優しく包み込む。
初めてのキス。胸がドキドキと波打って、何も考えられないほどに頭が真っ白になる。
「どう?思い出に残るでしょ?」
やがてゆっくりと顔を離して、ほのかがニッコリと微笑みかける。
「……ダメだよ」
「え?」
「だって…」
だって?
「これじゃあスグに忘れちゃうもん!だから」
だから?
「だから、今すぐもう一回しなきゃ!」




〜おしまい







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