決意を胸に!真夏の海とザケンナー!?
「いやぁ〜」
どこまでも続く青空の下、キラキラ輝くと水面を眺めながら、スポーティなビキニ姿のなぎさが気持ち良さそうに声を上げる。
「やっぱ海って気持ち良いね!もう最高!ねっ、ほのか!?」
「本当ね…」
爽やかな潮風に、腰に巻いたパレオをなびかせながら頷くほのか。しかし
「だけどなぎさ、さっきからずっとビーチに居るけど海に入らないの?」
と、不思議そうになぎさに問いかける。
「いやー…だってホラ、あたし泳げないし」
「もぅ、そんな事ばっかり言ってたら、いつまで経っても泳げるようにならないよ!?」
「でもあたし、自慢じゃないけど泳ぐのだけはダメなんだよね!」
「なぎさ、それ本当に自慢になってない…」
アハハと笑い声を上げるなぎさに、思わずほのかが苦笑い。
そして「でもなぎさ―――」と何かを言いかけた時
「ねえねえねえ、なぎさも雪城さんも聞いてよ!」
ニコニコと満面の笑顔で志穂と莉奈がやってきた。
「何と私達、さっきナンパされちゃった!」
「は?」
「やっぱやっぱやっぱ、私達の魅力ってスグにみんなの目に付いちゃうのよね!?」
「まあ、好みのタイプじゃなかったから断っちゃったんだけど…」
どこか自慢げに話す二人。そして
「なぎさ達はどう?男の子に声掛けられたりした!?」
と瞳を輝かせながら、ズイと身を乗り出してくる。
「私達?ないよね、なぎさ」
「うん…。きっとあたし達がカワイ過ぎて声が掛けられないんだよ!」
「え〜!?雪城さんは分かるけど…」
「なぎさは…ねぇ…」
「かちーん…。ちょっと志穂、莉奈!?どう言う意味よ!?」
二人の言葉になぎさが口を尖らせる。とその時
「フフ、皆さん楽しそうですね」
「ひかり!」
「ひかりさん!」
「タコカフェに来ませんか?アカネさんが差入れをご馳走してくれるって」
「ホントに!?行く行く!ほのか、志穂、莉奈、早く行こうよ!?」
さっきまでの不満顔はドコへやら。我先にと白い砂浜の上を、なぎさがタコカフェへと走って行った。
* * *
「はい、お待たせ!」
と、テーブルに並べられるアツアツのたこ焼き。
その上で鰹節がまるで生きている様に踊っている。
「うわぁいい匂い!」
「うんうんうん、美味しそう!」
「いっただきまーす!」
そして、もう我慢できませんとばかりに、皆でパクリ―――
「どう?浜で食べるたこ焼きはまた格別に美味しいでしょ!?」
「はい!とっても美味しいです!」
「でしょ〜。…でも、こうやって海に来られたのもひかりのお陰なんだからね?」
「そんな…私はただクジを引いただけですから」
アカネの言葉に、戸惑ったようにひかりが俯く。
「でも、一等を当てたはひかりさんでしょ?そのお陰で私達は海に来れたんだから!」
「そうだよ!凄いよ、九条さん!」
「うんうんうん。本当にありがとうね、九条さん!」
「は、はい…どういたしまして」
口々の感謝の言葉に少し照れながら呟くひかり。が―――
「ごちそうさま!」
「え!?なぎさもう食べたの?」
「なぎささん早すぎ…」
「ま、なぎさは色気より食い気だもんね!?」
「うんうんうん!だからナンパの一つもされないんだゾ!」
「いいよもう。莉奈の言う通り、あたしにはたこ焼きの方がずっと大切だモン。だからコレ頂き!」
「あーっ!?私のたこ焼き!!」
開き直ったように答えて、なぎさが志穂のたこ焼を一つパクリ。
すると、そんなやり取りを何気なく聞いていたアカネが興味深そうに
「なになに?ナンパがどーしたって?」
「アカネさん、実は―――」
かくかくしかじかで―――
「なーんだ、そんな事か」
フフン…とアカネが鼻で笑う。
「そんな事かって…」
「何言ってんのよ!?あたしがあんた達くらいの歳の時なんか、しょっちゅう声掛けられたモンなんだから!」
「…そ、そうなんですか?」
「あ!何その目線!?なぎさ疑ってるね!?」
「いやぁ、別にそう言うワケじゃないですけど…」
「ま、いいよ。なぎさにはアタシの魅力なんて分からないだろうからね!」
「もぅ!アカネさんまでそういう事言わないで下さいよ!?」
「まぁそう怒らない怒らない!」
ハハハと笑うアカネ。そしてひかりに視線を向ける。
「あ、そうだひかり。今日はもうお終いにしていいよ」
「え…?でも…」
「いいっていいって!皆と海を満喫してきな!?」
「有難うございます、アカネさん!」
と、嬉しそうなひかり。そんなひかりに、椅子から立ち上がりながらほのかが声をかける。
「じゃあ行きましょうか、ひかりさん?」
「ハイ!」
「ホラ、むくれてないでなぎさも行こう?」
「ふぁ〜い…」
・ ・ ・
「おい…もしかしてあれって―――」
その声が聞こえたのは、波打ち際を歩いていた時だった。
なんだろうと振り返ると、男が一人、沖のほうを遠く指差している。
そしてその男は、彼の仲間の方にゆっくりと振り返ると、その内容とはまるで正反対に危機感の無い調子で呟いた。
「溺れてるんじゃないか?」
* * *
コントロールを誤ったビーチボールが、コロコロと砂浜を転がって行く。
そんなボールを、「ゴメンゴメン」と彼女らしき女性に謝りながら、若い男性が拾い上げる。
平和でのどかな浜の光景。が、その反対に海では、とてものどかとは言えない事が起こっていた―――
「あたし、助けに行く!」
そう叫ぶと、なぎさが海に向かって駆け出そうと体を傾ける。
しかしそんななぎさに、「だめよ!」と、ほのかが制するように声をかける。
「なぎさは泳げないでしょ!?」
「そうだけど、だけど、あのままだったらあの子……!!」
「でも、あんなに沖なんだよ。なぎさまで溺れちゃったらどうするの!?」
もっともなほのかの意見。「う…」と言葉に詰まり、なぎさが沖へと視線を戻す。
「それよりも、早く監視員に知らせましょ?」
「う、うん…」
悔しそうななぎさの返事。唇を噛みながら監視員の所へと浜を急ぐ。とその時、何かに気付いたのか、ひかりが叫んだ。
「なぎささん、ほのかさん!アレ!」
「あれは…?」
「女の人?」
二人の言葉の通り、溺れる子供に向かい、一人の女性が猛然と泳いでいる。
そしてそれは本当に素晴しいスピードで、みるみる内に子供との距離が詰まっていく。
―――早く、お願いもっと早く、頑張って
祈るような気持ちでそれを見守る三人。そして―――
「やったぁー!!」
「凄い!よかった!」
「ホッとしました…」
喜ぶ三人の視線の先では、女性が子供を抱えて、浜に向かいゆっくりと泳いでいた。
* * *
カキ氷に頭を抱える子供達の楽しそうな声。そして、ソースと青海苔の香ばしい匂い―――ここは海の家。
あの騒ぎの後、「ホッとしたらなんだかお腹が空いちゃった」とのなぎさの意見に従って、皆で一休みしにやって来たのだ。
「いや〜それにしても」
ハムハムと幸せそうに焼きソバを頬張りながら、なぎさが目を輝かせて話し出す。
「あのお姉さん格好良かったね!」
「ホントに凄かったですね。あっという間に近付いたと思ったら、サッと助けちゃうんですから」
「そうね。きっとあの女の人、レスキューの訓練を受けた人だったのよ。あの人、溺れている子を後ろの方から助けたでしょ?
何かで読んだ事があるんだけどね、溺れた人を助ける時はああしないとダメなんだって。
正面から助けようとすると、例え子供でも一緒に引きずり込まれる可能性が高いんですって」
「なるほどね」
「納得です」
薀蓄に二人がフーンと感心する。しかし感心したのは二人だけではなかった。
「へぇ、お嬢ちゃん良く知ってるじゃない!」
どこかアカネさんを思い起こさせるような気さくな感じの声に、三人が振り返る。
「そうだよ。私ちょっとやってるんだ、そういうの」
するとそこには、美しく引き締まった体を健康そうに小麦色に染めた女性が、ニコニコと笑顔で立っていた。
「あなたは、さっきの…!?」
「そう、さっきのあの人。なーんて、ちょっとヒーローしすぎちゃったかな?」
フフッと笑いながら、その女性がなぎさの横にスッと座る。
「そ、そんなコト無いです!あたし、本当に凄いって思いました!」
「アリガト。だけどあれは当然の行動だもん。だからそんなに尊敬の眼差しで見ないでよ」
謙遜ではなく本心のように女性が答える。
「でも、当然の行動だとしても、なかなか出きる事じゃないと思います」
「そうですよね。ほのかさんの言う通りだと思います。私なんか体が竦んじゃって、何も出来なかった…」
「そうかな?ハハ、そうかもね。私が変わってるのかもね!」
そして再び「アハハ!」と声を上げて楽しそうに笑う。
「でも、いいなぁ。あんなに魚みたいに泳げるなんて…。あたしなんか泳げないから、結局ただ見てるだけで…」
羨ましさと寂しさが混じったようになぎさが呟く。
と、そんななぎさを見て、女性がフッと何所か懐かしそうに笑みを浮かべながら、静かに語りだした。
「実はね、私も昔は…て言うか、高校のある時期まではずっと泳げなかったんだ」
意外な告白に、エッ!?と皆で思わず彼女の顔を見る。
「子供の頃ね、私も海で溺れた事があったの。それで助けて貰ったんだ、丁度さっきのあの子みたいにね。
それがその時の私にはすっごくインパクトがあって、すっごく格好良くて…。それからずっと、私もああなりたいって思ってた。
だけど現実には泳げないでしょ?だから高校になると、ヤッパ夢は夢で終わるのかな、なんて思っちゃったりもしてね…。
でもね、諦めきれなかったの。どうしてもなりたかったの。…だから私ね、やったんだ」
「やった?」
「そう、やったの。だって出来ない事を『出来ない』って言ってるだけじゃ、絶対に出来るようにならないから。
ただ諦めてるだけじゃ、何も変わらないから。だからね、それから毎日少しずつ、1m・5m・10m――
ま、継続は力なりってトコロかな?今じゃ夢がかなって仕事だからね!今日は休暇だったけど」
最後は冗談ぽく言って、彼女が話を終える。そして、思わず黙ってしまっている三人にニコッと微笑むと
「はい、これでオシマイ。さて、友達待たせちゃってるからそろそろ行くけど、ゴメンね?勝手にお邪魔しちゃって」
と言いながら、「ヨッ」と席を立つ。
「それじゃ、海を楽しんでね。じゃあね!」
「何も変わらない…」
颯爽と去っていく彼女の後姿が人込みに見えなくなった時、なぎさが小声でポツリと呟いた。
* * *
空には沢山の星が煌き、月がまん丸と丸く浮かんでいる。
そう、夜である。
「ご馳走さまでした」
箸を静かに置くと、丁寧に手をあわせながら、ひかりが小さく頭を下げる。
そして、ゆっくりとお茶をすすりながら、皆のお喋りにウフフと可愛く笑い声を上げる。
そんなマッタリとした食後のひと時。だが突然、ポスンとなぎさが手を叩く。
「そうだ!ねえ、夜の浜辺に散歩に行かない!?」
「浜辺に散歩?うん、いいよ。星も綺麗だしきっと素敵ね!」
その情景を想像したのか、弾むような声でほのかが答える。
「サンキューほのか。ひかりも行こうよ?」
「私もですか?ハイ、是非!」
ひかりも嬉しそうに笑顔を見せる。
「志穂と莉奈もどう?」
「私はいいや。昼間で疲れちゃったしここでグッタリしてるよ…」
「私も私も私も…」
「そう…。じゃあアカネさんは…?」
とアカネの席へと顔を向けるなぎさ。が、スグに「ダメか…」と諦めたように呟く。
と言うのもつまり、注いだビールもそこそこに、アカネがグーグーと大の字で寝ていたからである。
「そっとしておいてあげましょ?一気に疲れが出ちゃったのよ、きっと」
「アカネさん、いつも一生懸命ですから」
そう言いながら、ひかりがアカネにそっとタオルケットをかける。
「じゃあ行こうか?」
そして三人が立ち上がる。
「気をつけてね」
「てかてかてか、悪い男の子にナンパされないようにね」
「まだ言うのね…」
ハァと息を吐くなぎさ。志穂と莉奈が、にひひと悪戯っぽく笑った。
* * *
月の光が海を柔らかく照らし、その上を走ってきた風が、全身を心地良く撫でて行く。
星空に見守られた静かな浜辺。聞こえてくるのは波と風の音、そして星座に関するひかりの質問と、
それに答えるほのかの声のみ。本当に静かな夜の浜である。
「―――と、言う訳なのよ」
「へぇ、そんな物語があったんですか、私知りませんでした…。なぎささんは知ってましたか?」
感心したように頷いて、ひかりがなぎさに問いかける。
「……」
「あの、なぎささん…?」
返って来ない答えに戸惑うひかり。助けを求めるようにほのかを見る。
「なぎさ、どしたの?」
「ねえほのか、ひかり…」
ほのかの言葉に、空と一体化してしまったような彼方の水平線を見つめながら、なぎさが静かに口を開く。
「出来ないって言ってるだけじゃ、出来るようにならないんだよね…諦めたんじゃ何も変わらないんだよね?」
「なぎさ?」
「あたし、最初からムリだって決め付けてた。泳げないんだって諦めてた。だけど、それじゃあダメだったんだよね」
と、クルリと振り返るなぎさ。そして、胸の前でグッとコブシを握る。
「あたし、やる!ガンバル!だってヤッパリ皆と一緒に楽しく泳ぎたいもんね!それに、泳げてたら昼間だって…」
「なぎさ……うん!私も一緒に練習手伝うよ!」
「私も応援します!」
「ありがとう、ほのか!ひかり!」
そして笑顔を交し合う三人。だが―――
「頑張る?全ては闇に飲み込まれるのに、そんな無駄な事をしてどうするんだい!?」
突然の冷徹な声が、その笑顔をかき消した。
「あなたは!」
「何が無駄だっていうの!?」
怒鳴るように反論するなぎさとほのか。しかしそんな二人を、ビブリスがフフンと鼻で笑う。
「無駄だから無駄なのさ。まあいずれにしても、お前達は今ここで消えるから、その無駄な努力すらやる事はないんだけどね!ザケンナー!!」
空はどす黒い雲に覆われ、そして星と月の代わりに、ザケンナーが姿を現す。
「ほのか!」
「うん!」
『デュアル・オーロラ・ウェイブ!』
「私も…ポルン!」
『ルミナス・シャイニングストリーム!』
* * *
「ザッケンナー!」
レスキューボートに乗り移ったザケンナーがそのプロペラを回す度に、つむじを巻いて舞い上がった砂が、
三人へと猛烈な勢いで襲い掛かって行く。
「何も見えない…!」
「いてっ!?何か今頭にぶつかった!何よ、もう!」
「ブラック大丈夫!?」
などと声を掛け合うものの、砂と風の勢いに動きを封じられ、反撃どころか吹き飛ばされない様に堪えるので精一杯である。
「ハハハ!どうだ、動けないだろ?さあザケンナー、やってしまいな!」
勝ち誇ったように笑うビブリス。そして、その声を受けたザケンナーが、どこからか伸ばした触手で三人を搦め捕る。
「ああっ…!」
「放しなさい…っ!」
「く、苦しい…」
ギリギリと体に食い込む触手。抜け出そうとすればするほど逆に強まるその苦痛に、思わず顔が歪む。
「努力、希望、未来…そんなくだらないモノは、全てあの波の泡の様に消えて無くなるんだ。お前らがどう足掻いても、世界は闇の支配下に置かれる。
だからいつまでも報われない夢を見るのは止めて、さっさと闇の中に消えるがいいさ!」
「い、いやぁ…」
「もう…ダメです…」
締め付ける力が一層強くなり、弱音がこぼれ始める。
そんな様子に、とうとうやった…と、ビブリスがニヤリとほくそ笑む。だが―――
「…そんな事、無い!」
ブラックの瞳は死んではいなかった。
「何だと!?」
「くだらなくなんか無い!未来の為に、希望の為に努力する事のドコがくだらないの!?」
「ブ、ブラック…」
「あたしは努力するって決めたの、諦めないって誓ったの!例えそれで望んだ結果が出なくても、そうする事できっと何かが変わる筈だから!
アンタには分からないだろうけど、あたしはそう信じてる!―――さあホワイト!」
大きく体を揺らすブラック、振り子のようにホワイトに近付き、ガシッと手を握る。
そしてその反動そのままにホワイトを、ブン!と、力一杯ザケンナーに向かって投げつける。
「タァーッ!」
―――ゴンッ!
渾身の蹴りがザケンナーにめり込み、三人が触手から開放される。
「やったねブラック!」
「うん!…それよりも」
ブラックがキッとビブリスを睨みつける。
「そんな気持ちをバカにするなんて絶対に許さないんだからっ!」
「お、おのれぇ……ツァーッ!!」
怒りに震えるビブリスが、砂塵を巻き上げながら突っ込んでくる。
「何故貴様らは…フンッ!…我々の邪魔をする!?一体何故だ!?」
次々と繰り出される鋭い突き。しかしクルクルと回転しながらそれを避けると、その手首をホワイトがグッと掴む。
「クッ…!?」
「私達には明日があるから!」
「その明日を精一杯に頑張りたいから!だからそれをバカにしたり、奪ったりするあんた達に負ける訳にはいかないの!」
気持ちを叫ぶと同時に、ハァァ…とコブシに気合を入れる。そして
「このぉ――ッ!!」
「カハァ!」
魂のこもった一撃に大きく吹き飛ぶビブリス。
そして、水面に大きな水飛沫が立った時、ポルンが皆に呼びかけた。
「今ポポ、力をあわせるポポ!」
「みなぎる勇気ッ!」
「あふれる希望ッ!」
「光り輝く絆と共に!」
「エキストリーム―――」
「ルミナリオーッ!!」
グワンと唸りをあげて、まるで津波のように、巨大な光が闇の者へと押し寄せる。
抗う事の出来ないその勢いに、ビブリスが悔しそうに舌打ちをする。
「ちぃっ!次こそは……」
仲間の下へと撤退するビブリス。当初の目標を失ったルミナリオはしかし、後ろに居たザケンナーを一気に飲み込んだ。
「ザ…ザケンナァ――――――……」
「……ふぅ」
ホッと息を吐く三人。
空には月が戻り、星が再び輝いていた。
* * *
―――バシャバシャバシャ
不恰好な足の動きに合わせて、プールの水面に不恰好な水飛沫が小さく跳ね上がる。
―――バシャバシャバシャ………ブクブクブク
「っ…ゲホッ!…どう、ほのか?」
少し涙目で咳き込みながら、なぎさがほのかの顔を不安そうに覗き込む。
「そうね…」
そんななぎさの不安を癒すように、ほのかがまるで天使のように優しく微笑む。
「最初よりも随分と良くなったよ!凄いわ、なぎさ!」
「ホント!?じゃあそろそろ休憩に…」
「だからもう一回、ね?」
その笑顔とは対照的な悪魔のように冷たい言葉。
ガックリと力なくなぎさが肩を落とす。
「ほのかの、イジワル…」
汚れた鉄板をゴシゴシと磨いているアカネに、ひかりがふと話しかける。
「なぎささん、きっと泳げるようになりますよね?」
「んー?さーね…」
一見気の無い返事。だがピタリと手を止めると、ひかりへと顔を上げる。
「本当にやりたいって気持ちが無いとね、いくらやったって中々出来る様にはならないんだよ。
何だってそう。勉強だってそう、運動だってそう、そしてタコ焼を美味しく焼くコトも、ね」
「なぎささん、本当に強く願ってました」
「じゃあ大丈夫、心配する事ないよ!絶対に泳げるようになるって!」
「なぎさ、どこ行くの?まだ練習の途中―――」
水から出ようとするなぎさに、ほのかが戸惑いの色を浮かべる。
「いいのいいのいいの!大分出来る様になったし、それにお腹も減っちゃったし。続きは明日ってコトで」
「ちょ、ちょっとなぎさ!?」
「さぁ何食べようかな!?カキ氷?焼きソバ?あーん、迷っちゃう!」
「ありゃありゃありゃ、ヤッパああなったか…」
「こりゃ今年もダメかもね、泳ぐの…」
フヒヒと呆れ笑いをしながら、志穂と莉奈が二人の後を追う。
夏休みのとある一日のそんな平和な光景。
空には太陽が今日も眩しく輝いている。
おしまい〜
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