おあずけ





ニュースでは梅雨入りしたと言っていたのに太陽は毎日ギラギラと輝いていて、
もちろん今日もとっても暑いのであった―――



「ねえほのか?」
カリカリとペンを走らす手をふと止めて、なぎさがちょっと上目にほのかへと話しかける。
「ん?なに?」
「そろそろいいんじゃないカナ?」
「そろそろって…何?」
「だから、ホラ…あれだって」

はて、一体なんだろう?なぎさの言葉に、うーんとほのかが考える。
あれ、あれ、あれ……!?そうだ!
「うん、ちょっと待ってて!」


―――トンッ

「お待たせ!」
机に置かれたお盆の上には、麦茶が注がれたグラスが二つ。
少し溶けた氷がカラリと音を鳴らし、いやもう本当に冷たくて美味しそうだ。
「暑いから喉が渇いちゃったよね。ゴメンね、気が付かなくて」
「わーい、アリガトウ!頂きまーす!」
ゴクゴクゴク…
「ぷはぁーっ!美味しかった!ホント生き返るよ!」
「ウフフ、それじゃあ続きやりましょ?」
「うん!」

て、アレ?いやいや、そんなんじゃなくてサ。…まいっか、もうちょっと待とうかな

・ ・ ・

そして、カチカチと時は流れて―――


「あの…ほのか?」
ゴシゴシと消しゴムを動かし終えると「ふう」とノートを眺めながら一息ついて、なぎさが再びほのかに声を掛ける。
「どうしたの?また喉が渇いた?」
「いや、そうじゃなくって、まだダメなのかな…アレ」
「まだダメって?」
「んもう、アレだよアレ」
「アレ?」

アレ、アレ、アレ…。
そうか、さっきは飲み物だったし、て事は今度は……。
「分かったわ、すぐ用意するからね」


―――ドン

「お待たせ!」
笑顔と共に運んできたお皿の上には、ポテチとチョコレートが山盛りに乗っていた。
どっちもなぎさの好物で、その心遣いが流石ほのかさんといった感じである。
「集中してやってるし、少しお腹が空いちゃったよね?ちょっと休憩にしましょ?」
「嬉しい!ほのかってばヤッパ分かってるぅ!」
パクパクッ!モシャモシャッ!
「あ〜幸せ…やっぱ疲れた頭にはチョコだよね!」
「フフ、そうね」
「それにしても、お腹が満足したらなんか眠くなっちゃうかも!?」
「もぅなぎさ、それじゃあダメでしょ。あとちょっとだし、最後まで頑張りましょ?」
「ハハ、冗談だって」
ペロリと舌を出して、なぎさがノートへと姿勢を戻す。
そう、あとチョット。おねだりした甲斐もあってお菓子も食べれたし、頑張らなくっちゃ!

…ん?違う違う、お菓子じゃないよ!あたしってば何流されてんの!?
うう…しょうがない。やっぱり宿題を先に終らすかぁ…


・ ・ ・


カリカリ、うーん
ゴシゴシ、うん?
カリカリ、ゴシゴシ、カリカリゴシゴシ―――


「終ったぁ!」
パタン!とノートを閉じて、なぎさが嬉しそうにバンザイをする。
「おめでとう!なぎさ頑張ったね」
「そんな、ほのかのお陰だよ。ほのかが居てくれたから出来たんだよ」
ニッコリと二人が笑顔を交わす。
一人じゃムリでも二人ならば嫌な勉強にだって立ち向かえるのだ。
「…ところでさ?」
と、急になぎさが少しモジモジとしだした。

「なに?」
「勉強も終わったし、アレいいでしょ?」
「え?なぎさ、さっきから『そろそろ』とか『まだ』とか、何言ってるの?」
不思議そうな顔のほのかである。
確かにさっきから「アレ」ばっかりで、それは無理も無い事だ。
しかしそんなほのかの様子に、なぎさがプックリと頬を膨らませる。
「んもぅ!ほのかってば本当に忘れちゃってたの?」
「忘れるって?」
「それはね…」
クスクスと笑いながら、なぎさがほのかへと近寄って行く。
そして、暑さもお構い無しに隣に座るとそっと頬に手を添えて―――
「これだよ」
「えっ?」

ちゅっ

「ほのかが勉強が終るまでダメって言ったから、ずっと我慢してたんだからね?」
少し赤い顔のほのかを瞳に優しく映しながら、ゆっくりとなぎさが唇を離す。
「…そうだっけ?」
「そうだよ。ほのかてばヒドイなぁ」
「ウフフ、ゴメンね」
と、申し訳なさそうに少し苦笑いのほのか。しかし「いいよ」と小さく首を振って、なぎさがほのかをちょんと床に倒す。

「…これからどうするの?」
「もちろん勉強するの。あたし達ふたりの、ね」
ツツとほのかの首筋になぎさが指を這わす。
「それなら、今度はなぎさが教える番ね」
「そう。あたしは厳しいからね」
「フフッ。お手柔らかにね、先生」



暑い暑い梅雨のとある日。
だけどこの分だと、部屋の中はもっとアツくなるに違いない。








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