最高のプレゼント
休み時間、それは生徒達にとって代えのきかない大事な時間。
そんな喧騒の中、ほのかが何事かをなぎさに話しかけている。
「ねぇなぎさ、今日部活もお休みでしょ?一緒にお買い物に行かない?」
いつもなら即答モンの誘いだが、何故か今日はまごまごとハッキリしない。
そんな様子に、ほのかが少し心配そうに尋ねる。
「なぎさ、どうしたの?」
「きょ、今日だよね?今日はその〜亮太が…そう!亮太が風邪引いちゃって
それでお母さんも家にいないし。ほら、私って弟思いでしょ?だから早く帰ってあげようかな〜
なんて思っちゃったりしてるから、アハハッ。そんな訳で今日はちょっと…」
「そ、そう…」
慌てふためきながら一気にまくし立てるなぎさに、思わず圧倒されるほのか。
また今度ね、と言ってそそくさと席に戻って行くなぎさを、ほのかはそれ以上何も言えずに
目をパチクリさせ見送るのであった。
* * *
「ハァハァ、急がなくっちゃ…」
放課後帰り道を急ぐなぎさ、だがその後をもう一つの影がつけている事には気付いていないようである。
(あんなに分かりやすい言い訳なんかされたら逆に気になっちゃうよ。ま、なぎさらしいケド…。
でも、あんなに急いで何処に行くんだろ?)
などと思っている影の正体はもちろんほのか。
昼間の事について何故なぎさがあんな言い訳をしたのか気になって後をつけてきたのである。
後をつけつつも、そういえば去年もこんな風に尾行した事があったっけ、あれは確かなぎさの誕生日で――
等と思っているとなぎさの弾むような声が聞こえてきた。
「ゴメンなさい、待たせちゃって」
(誰かと待ち合わせだったんだ、誰だろ?)
確かめようと物影から顔を覗かせるほのか。だが次の瞬間思わず我が目を疑う。
(藤村君!?)
──藤村省吾。ほのかの幼馴染でなぎさの憧れの人。
その藤村君が何でなぎさと待ち合わせを?と一瞬戸惑うほのか。
だがすぐに落ち着きを取り戻し、なぎさを冷やかしにでも行こうかと思い直す。
しかし歩を進めようとしたその時、さらなる会話が耳に入ってきた。
「そんな事ないよ、今来た所だから大丈夫だよ。それよりほのかにはバレ無かった?」
「ハイ、大丈夫です!でも藤P先輩こそ部活休んじゃって大丈夫ですか?」
「ハハ、美墨さんの頼みだからね、しょうがないよ。じゃ行こうか」
二人の楽しそうな会話を聞き、進めようとしていた足を止める。
(……何だか楽しそう。邪魔しちゃ悪いよね)
踵を返そうとしたほのかだったが、思わず恋人同士の様に並んで歩く二人の後ろ姿が目に入ってくる。
(!?)
途端、何故か胸がギュッと締め付けられ鼓動が早くなる。
経験した事の無い突然の感覚にうろたえるほのか。
その感覚は二人の姿が見えなくなっても暫くは消える事は無かった。
* * *
「…なぎさ!」
「…ほのか!」
部活帰りの校門でバッタリ出会ってしまった二人。
思えば今日は何故か一言も口をきかなかった。
気まずい空気が流れる中、お互いに無言で黙々と歩く。
だがそんな沈黙を破りほのかが口を開く。
「…なぎさ、藤村君と付き合ってるの?」
「えっ!?そんなわけ無いじゃん。何言ってるの?」
突然の問いかけに戸惑いながら否定するなぎさだが、ほのかは間髪入れずにさらに問い詰める。
「だって昨日隠れて会ってたじゃない。しかも私にバレないようにって!」
「…っ!見られてたんだ。ハー、やっぱり隠しきれ無かったか…」
「やっぱり付き合ってるんじゃない!」
何故か悲しそうに声を張り上げるほのかの様子になぎさは慌てて言葉を続ける。
「ち、違うよ!藤P先輩とはそんな関係じゃないよ!ほら藤P先輩、私よりもほのかの事昔から知ってるでしょ?
だから色々アドバイス貰ってたんだ。ほのかに喜んでもらいたかったから…」
「…どういう事、なぎさ?」
怪訝な表情のほのかに対し、なぎさは小さな包みを鞄から取り出し、黙ってほのかに差し出す。
「なぎさ、これって…?」
戸惑うほのかに向かってなぎさが静かに口を開く。
「ちょっと早いけど誕生日プレゼント。ビックリさせようと思って黙ってたんだけど、
何か変に誤解させてたみたいだね、ゴメン。……ね、受け取ってくれるよね?」
最初はビックリした様子で聞いていたほのかっだたが、次第にその目に光る物が溢れて来る。
その理由はなぎさの優しさか、それとも友を疑ってしまった自分への嫌悪ゆえか。
暫しの静寂の後、そっとプレゼントを受け取り小さくほのかが呟く。
「ありがとう……ゴメンね、なぎさ」
「そんな!ほのかが謝る事なんか無いよ。ね、開けてみて」
「え…いいの?」
「もっちろん!さ、早く」
なぎさに促され、少し照れくさそうに包装を解いて行くほのか。
だが中身を見た瞬間その表情に戸惑いの色が浮かぶ。
「なぎさ、これ空……っ!?」
突然ほのかが言葉を止める。
その理由は――
キス
言葉を紡ぎ出していたほのかの唇を、なぎさの唇が優しく包み込む。
どれ位の時間であったのだろうか?唇をそっと離し、なぎさが優しく呟く。
「色々探したんだけどね、結局何も見つからなかったんだ。でもどうしても想いを伝えたかった。
だからこれが私のプレゼント、私の本当の気持ち…って、ダメかな?」
「…ううん、そんなこと無い。最高の…最高のプレゼント!」
とびきりの笑顔で抱きついてくるほのか。そんなほのかをなぎさは優しく抱き止める。
再びどちらからともなく重なり合う唇。その唇を通して伝わるお互いの気持ち。
沈み行く夕日が映し出す二人のシルエットは、いつまでも重なりあったままだった。
* * *
うららかな春の朝、登校中のなぎさとほのかに駆け寄ってくる二つの足音。
「おはよーって、あれあれあれ〜?なぎさと雪城さん、手なんか繋いじゃって朝から仲イイね〜」
「そうだよ、昨日は何かギクシャクしてたみたいだけど…何かあったの?」
志穂と莉奈の質問に思わず顔を見合わせる二人。
「ううん、何にも無いよ。ね、なぎさ」
「う、うん。そうだね、ほのか」
「フーン、そう……って急がないと時間ギリギリだよ!」
「そうそうそう。先に行ってるからね。なぎさ達も急がないとヤバイよ!」
慌しく去って行く二人を見送りながらなぎさがため息をつく。
「ハー、ドキッとした。あの二人にバレるかと思った」
「あら、別に隠す事なんか無いのに…」
「えっ!?」
思いがけない言葉に狼狽するなぎさ。
そんななぎさを見てほのかがクスッと小さく笑う。
「フフ、冗〜談。それより私達も急ぎましょ?」
「う、うん、そうだね。…でも本当?」
「もーいつまでもそんな事言ってないで。早くしないと遅刻しちゃうよ」
まだ何か言いたそうななぎさを、ほのかが引っ張るようにして、ようやく駆け出して行く二人。
傍から見ればいつもと同じような二人の関係。
だけど繋いだ手のワケはいつもとはチョット違う。
でもそれは、まだ二人だけの秘密。