魚釣り
星野屋―――夕凪町の海沿いにある、家族経営の小さな釣り船屋。
だけどそんなトコロにも意外なお客さんは来るワケで…
「ふぁーあ…」
「おう健太?」
欠伸をしながら居間へとやってきた健太に父親が声をかけてくる。
「ナンだよ、父ちゃん?」
「ちょっと今日船乗るの手伝わねえか?」
「えーっ!?今日は友達と約束があるんだよな…」
父親のお願いを渋る健太。とその時
―――すいませーん!
店の入り口の方から女性の声が聞こえて来た。
「いらっしゃい!もしかして、予約してた―――」
父親の言葉に女性がコクと頷きを見せる。
「藤田です」
「やっぱりそうか!で、そちらは娘さん?」
「ちょっとオジサンそんな訳ないでしょ!?この子はあたしのイトコ!」
呆れたように言い返すアカネに続いて、少女がペコリと頭を下げる。
「始めまして、九条ひかりです」
「おっ礼儀正しいね!しかしイトコか…そうだよな、こんなに若くて綺麗なお嬢さんが、子連れな訳ないもんな!?」
「アハハ!口が上手いね〜!」
お世辞に満更でもない様子のアカネ。そしてその横を通り
「じゃあ俺は出かけてくるからさ」
と健太がドアへと向かう。だが、ひかりの顔をチラリと見た瞬間―――「!?」
「どうした、健太?固まっちゃって…」
「ととととととと父ちゃん!俺手伝うよ!!絶対に手伝う!!」
「え?でもお前、約束があるんじゃ…」
「何言ってるんだよ!お客さん第一だろ!?ホラ、さっさと説明を始めようぜ。時間がもったいないよ!」
* * *
「お魚さん、釣れませんね…」
「焦るなって、これからだよ。釣りは焦ったら負けだぜ?」
水面を見つめながら少し寂しそうに呟くひかりに、健太が励ますように声を掛ける。
「焦ったら負けですか…そうですよね、お魚さん相手ですモンね?健太さん分かりました!」
ニコッと微笑むひかり。そして
「それにしても気持ちいい風…」
と頬を撫でる潮風に目を細める。
―――……!!
そんな横顔に思わず見とれてしまった健太。だが慌ててうつむくと、
ドキドキする胸を押さえて先程から気になっていたコトをひかりにぶつけてみる。
「…なぁ、この町に住んでるのか?」
「いいえ、今日は旅行で来たんです」
「そうか…旅行でか…」
戻ってきた回答に心なしか残念そうな健太。
しかし、もう一度ひかりの横顔へと視線を向けると
―――なら、尚更いい思い出を持って帰ってもらわなきゃダメだろ!?
と心の中で強く思ってグッとコブシを握り締める。
とその時
「あの、健太さん…?浮きが動いてるんですけど、あれって…?」
少し戸惑いを見せながら、ひかりが海面を指差した。
「え…?……おい!来てる来てるよ!かかってるって!」
「え、えー!?どうしたらいいんでしたっけ!?」
「とにかくリールを巻いて!」
「こうですか!?」
「そうその調子!」
健太のアドバイス通りにひかりがリールを巻いて行く。
段々と強くなっていく手応え。そして―――
「あっ!釣れました!」
「やったな!!」
* * *
「健太おはよう!」
「なんだ咲か…」
「なんだは無いでしょ!?どうしたの、なんか様子が変だけど?」
いつもと違う反応に、咲が心配そうに健太の顔を覗き込む。
「このお休みの間に何かあったの?」
「いんや、何もねえよ…」
「何もないハズ無いでしょ!?何も無いのに健太がそんな顔する訳ないもん!」
「う〜しつこいなぁ!…そうだな、まあしいて言えば『出会いと別れ』ってヤツかな」
「出会いと別れ?」
「そう。俺も大人の階段を一歩上ったって事だよ」
しんみりとした表情で語る健太。だが―――
「プ…アハハハッ!!健太ってば何言ってるの!?」
「な、何で笑うんだよ!?」
「だってそれ全然似合わないよ!?」
そして再び笑い出す咲に、ムッとした様に健太が言い返す。
「お、失礼なヤツだな!あーそうか、お子ちゃまの咲には関係の無い話だもんな」
「チョット!?それどういう意味よ!?」
「お子ちゃまだからお子ちゃまなんだよ!この、お子ちゃまお子ちゃまお子ちゃま!!」
「あーっ!そう言う健太こそ、下らないギャグばっかり言ってお子ちゃまじゃない!」
「なんだと!?」
「何よ!?」
目からバチバチと火花を出しながら言い合う二人。そんな二人を見て
「マッタク、咲も星野君も本当にお子様なんだから…」
と、呆れたように苦笑いしながら舞が呟いた。
・ ・ ・
―――今度来た時は、今日よりももっとでっかい魚釣らせてやるからよ!
―――あと、飛び切りのギャグも聞かせてやる!だから絶対にもう一度来いよ!?
「どうしたのひかり?ボーッとしちゃって…」
そのアカネの言葉に、ひかりがハッとした様に顔を上げる。
「いいえ、何でもありません」
「そう…。ねえひかり、またいつか釣りに行こうか?」
「アカネさん…ハイ、是非!」
「フフフ、じゃあそれまではシッカリと働かなきゃね!という訳で、注文お願いね!?」
「ハイ!」
明るく返事をしてお客の下へと歩み寄って行くひかり。そして飛び切り笑顔で―――
「いらっしゃいませ!」
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