サクラハナビラ




何かを失くしてしまった気がする…
あの、空が真っ赤に夕焼けたあの日から…
だけど、それが何だかはサッパリと分からなくて、いたずらに不安だけが増していって…
でもきっと絶対に大切で、あたしにとってかけがえのないモノで―――


「…あの、すいません」

「!?あ…ハイ!?」
「注文してもいいですか?」
怪訝そうなお客の表情に、アカネが慌てて笑顔を作り直す。
「も、もちろん!何にします!?」
「えーと、それじゃあ―――」

   ・
   ・
   ・

「ありがとうございました!……ふぅ」

―――参った参った。あたしとした事がボーッとしちゃってさ…

遠ざかるお客の後姿を眺めながら、やれやれと言った感じで息を吐き出しつつ、アカネが苦笑いを浮かべる。
「さて…」
そして、鉄板周りを整頓し始めると
「ねえ、ちょっと外のテーブル片づけ―――!?」

が、そこまで言いかけて、思わず言葉を飲み込む。

―――あたし…今誰に?ここにはあたし以外に従業員なんか……

チクチクと痛む胸を押さえながら店の奥へと視線を向けるアカネ。
しかしそこにはいつもの車内の光景が、どこか寂しげに広がっていた。



* * *



「ふぅ…良いお湯だった…」
濡れた髪をタオルで覆い、麦茶を片手にアカネが床にドカッと座り込む。
そしてそれをグイと一口飲むと、家計簿を手に取りページを捲る。

「ふーん…まあまあじゃん」
最初はパラパラと何気ない感じ、だが次第に
「…あれ?」
と、訝しむ様な顔に変わって行く。
「おかしいな?何でこんなに利益が出てるんだろう…。そんなにお客さん増えたっけ?」

うーん…と首を捻るアカネ。しかし悩むものの答えは出ず「あーあ」とベッドに寝転がる。

「もう訳分かんないよ。何が何だか全然分かんない…」
そしてそう呟きながら、傍らにあったバンダナを、ポンと上に放り投げる。と―――ひらり

そこから一片の花びらが舞い落ちてきた。


「これは…?」
―――ああ、公園で咲いてた、気の早いあの桜の木の花びらか…

それを手の平に乗せ、まだ春には早いというのに咲き誇る公園の桜の木を思い出しながら目を閉じる。
とその時

―――アカネさん…

「!?何、今の…」
突然頭の中にフラッシュバックしてきた声に、アカネがガバッと上体を起こす。
「……り?」
その声が、その姿が、湧水が溢れるが如く急速に頭の中に甦ってくる。
「…ひ…かり。…ひかり!!」

―――思い出した!ひかりが…空が真っ赤に染まったあの日から、ひかりが居ないんだ!

慌てて部屋を飛び出し、ひかりが居た部屋の扉を開ける。
しかしそこには、ひかりが存在していた証は何も無く、空のベッドがポツンと在るだけである。

「何も無い……どこ?どこに居るの!?ひかり!」


・ ・ ・


「アカネさん…?」

「…ひかり!?」

玄関のドアを開けると、大きな旅行バッグを手に、ひかりが立っていた。

「どうしたんですか?そんなに慌てた様子で…」
「ひかり…あんた本当にひかりだよね!?」
「はい、そうですけど?」
「………ばかぁ!!」
言葉とは裏腹に瞳に涙を溜めながら、アカネがひかりをギュッと抱きしめる。

「今までドコ行ってたのよ!?荷物一つ残さないでさ!」
「ゴメンなさい…。ちょっと実家に帰ってたんです…」
「実家?」
「はい、実家です」

ニコニコと笑顔のひかり。そんな様子にアカネも涙を拭い、笑顔でひかりの頭を優しく撫でる。

「まあ何だっていいや。…それならまた一緒に頑張ろっか、あたし達の夢のお城で!?」
「ハイ、もちろん!」
「ヨーシ、その調子!……ところで、さっきから気になってたんだけど、この男の子は?」
「この子はひかる、私の弟です」
「こんばんは」
と、ひかるがペコリと小さく頭を下げる

「あ、ああ。今晩は……えっ!?ひかりの弟!?」
「ええ…それでそのアカネさん?これからはひかるも一緒に…」
驚きで目を丸くするアカネに、ひかりがモジモジと話しかける。

「……ふ、アハハハハッ!」
「アカネさん!?」
突然の笑いに、ひかりが不思議そうにアカネを見つめる。
「OKOK!多い方が賑やかで楽しいモンね!」
「!!アカネさん、ありがとうございます!」
「でも、明日から今まで以上に頑張るよ!?なんてったって家族が一人増えたんだから!」

どこか嬉しそうな口調のアカネ。そしてそれに対し、ひかりも飛び切りの元気な笑顔で―――

「ハイッ!」


――おしまい







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