私の夢は
「おろ?」
放課後の、帰るまでのささやかなひと時。
こっそりと持ってきたお菓子を食べる手を休めて奇妙な声を出したのは奈緒である。
目にしているのは一冊の雑誌で、女の子の写真がずらりと並んだ『目指せ次代のアイドル!』の特集ページ。
で、その中の一人の写真を見て今の変な声を出したのだ。
「この子、ひかりに似てない?」
「本当だ!似てる似てる!」
思わぬ大発見に、すぐさま美羽が横から顔をひょっこりと出す。
言われたひかりもモチロン覗いてみると、なるほど、似ていると言えばなんとなく似ているような気がする。
うん、なんとなーく、ね。
「そうかな?似てるかな…?」
「そうだよ!えーと…春日野うららってコなんだ」
ふーんと名前を確認して、奈緒がうららの写真とひかりの顔を見比べる。
そして額に指を当ててなにやらムムムム……と、両手をポンッ!
「ねえ、ひょっとしたらひかりもアイドルになれるかもよ!?」
「ええっ!?私が…!?」
「ひかりカワイイし、きっとなれるよ!」
「うん!なれるなれる!」
絶対に間違いないよってな調子の二人。だけどひかりはどうもピンとこない様子である。
そりゃあアイドルに似てるって言われて悪い気はしないけど、それにしたってそんなの今まで思った事も無かったのだ。
特に興味も無かったし、それに何より―――
「そうだ!ちょうどこれで『キュアハート9』の出演者募集してるし、事務所にひかりのプロフ送ってみようよ!?」
「!?」
「うん!一番かわいいプリクラ貼って出しちゃおう!」
「ちょっと、奈緒美羽!?」
強引な二人にひかりが思わず声を上げる。
「私、別に―――」
だけど、そんな声なんかどこ吹く風で二人はサラサラと書き上げると
「ヨシ完成!ちゃんと送るんだよ?ひかりなら絶対に合格できるから!」
「ひかりがアイドルかぁ…超楽しみ!」
てな具合に、勝手にけってーい!
* * *
―――そしてその夜
「ひかり、どうするポポ?本当に応募するポポ?」
お風呂上りのベッドの上、浮かない顔で履歴書とにらめっこしているひかりに、ポルンが心配そうにそう話しかける。
「分からないわ」
困ったようにハァと首を振って、ひかりがテーブルの上にそっとそれを置く。
「とにかく、明日もう一度良く考えてみる事にするから…」
そしてもう一度フゥと息を吐いて、電気をパチッと消した。
「オヤスミ…」
・
・
・
―――ひかりちゃん、イイよ〜!いい表情!
パシャリ!
―――いやぁ、いい写真撮れたよ!次回の撮影もヨロシク!
「はい、ありがとうございます!」
―――っと、ひかりちゃん!
「あ、マネージャーさん」
―――次はドラマの撮影があるから、急いで急いで!
「あっ、はい!」
トントン
「ひかり!」
「……?」
「すっかり売れっ子になっちゃったね、ひかり」
「アカネさん!」
「久しぶりだね。元気だった?」
「あの…ゴメンなさい。最近お店のお手伝い―――」
「いや、売れっ子アイドルはもうそんな小さな事気にしなくたっていいんだよ」
「だけど…」
「だって、ひかりはこれがやりたかったんでしょ?」
「え?」
「いいんだよ。ひかりはひかりの夢を、アタシはアタシの夢を…だからさ」
「そんな!?待って下さい!私は……」
「それじゃあ、またね」
「アカネさん!私は―――」
私のやりたい事?
「アカネさん!」
私の夢?
アカネさん!!
・
・
・
「う…ん…」
胸の苦しさに目覚めると、ポルンとルルンが上に乗っていた。
少し苦笑いしながら室内を良く見るともう朝で、机の上には昨日の履歴書が当然そのままにある。
「……」
ジッとそれを見つめるけれど不思議と何も感じない。昨日はあんなに悩んだのに…
―――そうよね、別に悩む必要なんてなかったのよ。だって…
「ひかり、それどうするポポ?」
「こうするの」
ポルンの言葉にフッと小さく微笑むと、手にしたそれをクシャリと丸めて、それからゴミ箱にポイッと捨てる。
「捨てちゃって本当にいいポポ!?」
「いいのよ。私なんかがアイドルになんてなれる訳ないもん。それに…」
そう、それになによりも、これが一番重要なコト。
「やっぱり、私はタコカフェが一番好きだから!」
ウフフ、最初からハッキリしてたのにね。アイドルなんかよりもお店の方がずっと夢だって。
だからカーテンを開いて朝日を胸いっぱいに吸い込んで、扉を開けて今日も一日頑張らなくちゃ!
「おはようございます、アカネさん!」
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