ユメ?






今日は朝から冷たい雨がずっと降り続いていた。

「ほのか、お薬もってきましたよ」
スッと部屋の障子が開いて、おばあちゃまが入ってきた。
「ありがとう、おばあちゃま」
コホンと咳をしながらお礼を言って、ほのかがお盆を受け取る。
薬に咳、そして赤い顔―――そう、つまり風邪を引いてしまったのだ。
ここのところ寒かったし、部活とかでも色々と忙しかったので、疲れが出てしまったのかもしれない。
「ゴメンね、色々と」
薬を飲んで申し訳なさそうにほのかが言う。
「いいんですよ、ほのかはそんな事気にしなくて。それよりも、しっかり休んで早く良くなる方がずっと大事ですから」
「…うん」
「それじゃあ、私はお買い物に行ってきますからね」
「うん、いってらっしゃい」
おばあちゃまが出て行くと、また部屋に静けさが戻ってきた。
本当に寂しくなるくらいの静けさ。もう一度ベッドに横になりながら外を見ると、相変わらずに雨は降り続いている。
―――なぎさ…
とその時、何故だかなぎさの顔が浮かんできた。

―――今なにしてるのかな?
―――お菓子とか食べてるのかな?
―――私の事、少しは考えていてくれてるかな…?
―――もし会えたなら、こんな風邪なんかスグに治っちゃうのに…
会いたい気持ちが心に芽生えて、そしてどんどんと膨らんでくる。
居ても立ってもいられなくなって、今すぐにでも靴を履いて家を飛び出したくなる。
だけどそれは当然無理なことで、フフッと自分に苦笑して気持ちを静める。
「オヤスミ…」
そして誰に言うでもなくそう呟くと、そっと目を閉じる。

シンとした部屋に響く雨音。
そこに混じって小さな寝息が聞こえてくるのには、そう時間はかからなかった。



* * *



「…ほのか」

名前を呼ばれた気がして振り返ると、そこになぎさが立っていた。
「なぎさ…!?どうしたの一体!?」
「どうしたの、じゃないよ。遅刻だよ、ち・こ・く!」
イタズラっぽくそう言って、それからなぎさがフフッと笑った。
「え、遅刻って何?」
私って寝てたんじゃなかったっけ?と、唐突な状況に思わず頭がこんがらがる。
「あの…」
「さ、行こう!」
だけどそんなほのかの手を、なぎさがグイッと引っ張る。
「ちょっと、行こうってドコに!?」
「デート!」
「デート!?」
すると、景色が急にグニャリと変化した。

「美味しいね!」
「うん!」
出来立てのアツアツ焼きイモを、仲良くベンチに座ってパクッと食べる。
チラリと横を見るとなぎさもこっちを見ていて、そんなシンクロ具合にニコリと微笑み合う。
うん、これは間違いなくデートだ。焼きイモは美味しくて、ココロは嬉しくて、とっても幸せな気分である。
「あれ?ところでこのおイモどうしたのかしら?」
だけどもう一口パクリと食べながらふと思った。
いつの間にコレ買ったんだろう?ていうか、ココどこ?
「まあまあ、深い事は気にしない気にしない!美味しいんだからそれでいいじゃん!?」
「フフ、そうね」
うん、全然気にしない。一緒に居られればそれだけで十分だもん。
「じゃあ次はドコ行こうか!?」
「えーと―――」

夜だ。
月は煌々と照っていて、コンペイトウのような星々が空を美しく彩っている。
「サヨナラだね…」
「うん…」
街灯の下、名残惜しそうに見つめ合う。
周りには誰も居ない。本当に二人の為だけに用意された夜である。
「好きだよ」
いきなりなぎさが抱きしめてきた。
「知ってる」
だけど不思議とドキドキしなかった。
「私も好き。大好き」
「そっか。…ねえ、キスしようか」
「うん」
こうなる予感がしてた。
暫らく見つめ合って、それからそっと目を閉じる。
大好きな大好きな、本当に大好きななぎさ。
そのなぎさと、私は今―――


―――
――



「…ん」
「あれ?起きちゃったんだ」
そんな声が聞こえて来た。
「…え?」
その声へと視線を移すと、優しい眼差しで自分を見るなぎさが居た。
「フフッ、どうしたの?そんな顔しちゃって」
「だって…」
だって今、私となぎさは――――――夢?
ボンッ!と一気に顔が赤くなった。
どうしようもなく恥ずかしくなって、布団を頭からガバリと被って少しバタバタとしてみる。
「ちょっとほのか、大丈夫!?」
「な、何でも無いよ!」
プハァ!と顔を出して答えて、そして深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
夢夢、夢だもん!そうよただの夢。夢なんだから…ふぅ…
「…それよりも、どうしてなぎさが家に居るの?」
「どうしてってお見舞いに決まってるじゃん。外でほのかのお婆ちゃんに会って、それでほのかが風邪引いてるって聞いて
慌てて飛んできたんだよ。具合はどう?つらい?」
ほのかの額にペタリと手をあてながら、なぎさが心配そうに言った。
「ううん。さっきよりも全然良いみたい。きっとなぎさがお見舞いに来てくれたお陰ね。ありがとう」
そこにそっと手を重ねてほのかが答えた。
お見舞いに来てくれたのはモチロン、会いたいという思いが通じたみたいで余計に嬉しい。
「良かった…」
と、ホッとなぎさが胸を撫で下ろす。
「だけど、まさかほのかがあんな事言うなんてねぇ」

「…何の事?」
意味深な呟きに嫌な予感がして、ほのかが恐る恐る聞いてみる。
「寝言だよ。あたしビックリしちゃった」
「え!?私何て言ったの!?」
「いやー、それは教えられませんな。ムフフ」
「何で!?もう、なぎさのイジワル!」
ニヤリと笑うなぎさに、プゥとほのかが頬を膨らませる。
「エヘヘー。知りたいの?」
「うん」
「凄く知りたい?」
「うん!」
「しょうがないなあ。じゃあ、もうちょっとこっちに顔寄せて?」
「こう?」
「うん。実はね―――」

―――ちゅっ

「!?え、ええっ!?」
唇に、柔らかで温かいモノが触れた。
仰け反るようにして慌てて顔を離してなぎさを見る。
「したよ、キス」
「どどど、どうして…!?」
心臓が爆発しそうなくらいにドキドキと鼓動している。
「ほのかが言ったんだよ。大好き、キスしようって」
「わ、私がそんな事…!?」
「うん、言ったよ。だからしたの」
ニコッとなぎさが微笑んだ。
「う…」
まずい、頭がクラクラする。と
「でもね今度のは―――」

―――ちゅっ

「今度のはあたしの気持ち。あたしもほのかの事大好きだもん!」
「…あ」
もうダメだ。限界。プシュー。
あたまのテッペンから湯気が出た。そして―――バタン!
「う、うーん…ユメ、これもきっと夢よ…」
「ほのかどうしたの!?…うわ、熱っ!」



〜特にオチも無く、おしまい








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